番外編 Happy Birthday

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 銀座線から地上へ上がる階段を急いで昇る。  今日は母さんと徹さんとランチを一緒に食べる約束だ。前は家政夫って呼んでたけど、今は“徹さん“って呼んでる。家政夫って仕事内容だからそうだと思ってたんだけど、蒼兄にとってどうやら“そういう意味“じゃないらしいって鈍い俺でも理解したからだ。まあ、問題は徹さん本人が自覚してないってことだけど。  母さんはもともと銀座近くで育ったし、実家が裕福なお嬢さま暮らしだったようだから、俺一人じゃとても入りづらい店なんかも顔馴染みだったりする。だから美味いものを食べたい時は母さんと一緒に行くに限る。けどそれも実は最近じゃ少し気恥ずかしかったんだけど、うまい具合に徹さんが一緒だ。徹さんがいると何か楽しいから、俺としてはありがたいことずくめだ。階段を昇りきり、〈三越〉のライオンまで急ぐ。ちなみに母さんは徹さんと最初〈和光〉で待ち合わせしてたらしいが、徹さんは〈和光〉が分からずに迷ってしまったらしい。母さんは『徹くんは百貨店はあまり詳しくないのね』なんて言ってたけど、俺だって出来れば〈和光〉待ち合わせは避けたい。なんというか俺みたいな学生には居心地が悪いんだよな。  ライオン像の前にはもう母さんが到着していた。 「遅くなった! あれ? 徹さんは?」  俺がぜいぜいしながら聞くと、母さんは顔を顰めた。そして首を振った。 「あー、また蒼兄に捕まっちゃった感じ?」 「今日はお父さんと総一朗さんだって」  あー。俺も眉間に皺が寄った。  火曜日は徹さんが午前中はお手伝いのために会社に行っている。その会議は昼前には終わるはずなのに、何故かいつも誰かが徹さんを引き留める。だいたいは蒼兄だけど。けれど最近じゃ親父と総一朗おじさんと話し込むことも少なくないらしい。そしてだいたい自分らと一緒にとランチに誘うらしい。こないだ遊びに来た蒼兄がそう言って怒っていた。きっと今日は一緒にランチ出来ないからわざと話し込んでるんだと思う。大人気ないぞ、親父達よ。 「佐和子さーん! 湊くーん!」  徹さんが走ってやって来た。そんなに急がなくても大丈夫なのに。  ちなみに母さんは“佐和子さん“と呼ばせている。『“黒田のお母さん“なんて長すぎるし、他人行儀だわ』というのが理由らしい。前半には同意だけど、後半は意味分かんないけどね。ちなみに総一朗おじさんは“社長“、父さんは“専務“と呼ばれている。総一朗おじさんははそれが不満で、“総一朗さん“と呼ばせたいらしい。会社で名前呼びとかあり得ないと思うけど。そしたら父さんが『専務じゃなくて“父さん“って呼んでもいいぞ』とか訳分かんないこと言っちゃって、総一朗おじさんがブチ切れていた。なんでそこは名前じゃないんだよ。
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