第一章

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 俺はそれから今日のこととかを報告する。洗濯のこととかミーシャのこととか。 「だったら洗濯物とか僕の部屋に置いてもらえると助かるかも」 「部屋に勝手に入っていいのか?」 「別に構わないよ」  そうか……と俺は短く返事をした。なんか部屋とかに入られるのとか嫌がりそうなイメージだったんだけどな。いつまでも高校生の時のイメージに引きずられてもいけないのかもしれないな。俺は考えを新たにしようと思った。  もう日付が変わりそうな時間だった。三木に先に風呂に入ってもらって俺は皿を洗った。三木は朝は何か食べて行くんだろうか。冷蔵庫だけでなく棚も漁ってみたが、朝食になりそうなものは見つからなかった。仕方ない。明日は諦めてもらおう。  すると突然音がした。  なんの音だろうと部屋を見廻す。壁に嵌まったモニターが映っていた。そこにはここのマンションの入り口と思われる映像が映っていた。  ───人?こんな時間に?  女性だった。三木の知り合いだろうか?  俺はなんの気なしにモニターに寄って行った。これはどこかのボタンを押せば話せたりするんだろうか?  俺が何かボタンを押そうとした時、急に手首を掴まれた。 「なにしてんの?」  三木だった。俺はモニターを指さした。三木はチッと舌打ちをした。 「昨日話したストーカー」  俺は驚いてモニターを見た。そこには本当に普通の女性が立っていた。昨日の女の人とは違う人だったけれど、普通にいそうな綺麗な人ってところは同じだった。  うぜえな、帰れよ  三木はそう言うと風呂場に戻って行った。その横顔はなんというか……それは俺の知ってる三木だった。  俺はモニターの前から動けなかった。その人は何度もチャイムを鳴らした。そして段々と鬼気迫るような押し方になっていった。俺は目を離せなくなった。  三木が帰ってきたことを知ってるに違いなかった。ずっと見ていたんだろうか?  そしてついには音は鳴らなくなり、モニターの画面は真っ暗になった。 「夜だけ来るのか?」  風呂から上がってビールを飲む三木に俺は声をかけた。  ああ、まあ。三木は曖昧に返事をした。 「怖くないのか?」  俺は言ってからしまったと思った。これじゃ俺が怖いみたいじゃないか。 「───別に。どうせ入って来れないし、これが初めてってわけじゃないから」 「何度も来てるんだな?」 「ああ、あの子?そうだね、三度目くらいかな。そのうち諦めるよ。だいたいいつもそうだから」  いつも? 「てかこれで“何人目“だ?」 「さあ。でも10人はいってないと思うよ」  ホント、お前どんな付き合い方してんだよっ!  俺は風呂から上がって廊下をペタペタと歩く。三木はあれからすぐに部屋に入って行った。  ずっとあのストーカーについて考えていた。こんなに遅い時間にやって来て一体なにがしたいんだろうとか、朝待ってたりするんだろうかとか。やっぱり怖くないと言ったら嘘になる。  部屋に入ってベッドに座る。確かに三木が悪いんだろうなって思う。だからって深夜にいきなりやって来たら余計に嫌われてしまうとか思わないんだろうか?それとも一目でいいから会いたいって気持ちが勝るんだろうか。 ぐるぐると考えは巡ったけれど、なにが正解なのかは分からなかった。俺はストーカーになったこともなければ、ストーカー被害にあったこともない。  カリカリカリ  ドキリとする。なんの音だろう。その音は一旦止んで、また始まる。俺はそっと部屋を出る。  カリカリカリ  やっぱり……  俺は扉を開けた。扉の前にちょこんと座っていた。 「……出たいのか?」  俺がそう聞くとミーシャはなーおと甘えたように鳴いた。俺はミーシャを抱いた。何気に重い。仕方ない、今日は一緒に寝よう。そのままベッドに横になってもミーシャは嫌がらなかった。 「オマエもちょっと怖かったりする?」  俺の問いにミーシャは少し目を開けたが、すぐに閉じた。
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