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第三章
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三木はそれからなんとなく俺との距離が近くなった。っていうか耳元で急に話しかけるのはやめろ。あと黙って後ろに立つのは止めてもらえないだろうか。気づいたら居るからビックリするんだが。一応それとなく伝えてみたんだが、うんって答えてくれるものの全く止める気配はない。
それどころかソファに座っていると、片側にミーシャ片側に三木が凭れて来て何気に重い。しかも両方止める気はないから困る。
最近の三木は何というか刷り込みされた雛鳥みたいで、俺も無碍には出来ないし。というか三木に懐かれるのは正直嫌じゃなかった。
いつものように過ごしてたら夕方スマホが鳴った。変な時間に急に鳴るからビックリした。三木はまだ仕事中だろうし。
画面に不思議な文字が現れた。よく分からないので慌ててOKボタンを押してしまった。
『サンキュー!これで俺も送れるわ』
ん?
え?黒田!?
『これから行っても平気か?』
『三木はまだ会議だから遅くなると思う』
『夕飯作っちゃった?まだならこれから鍋の材料買ってくから鍋パーティーしようぜ』
続けざまにメッセージが届く。だから俺はまだ慣れてないっての!結局送れたのは『鍋、へいき』だけだった……。
「徹ちゃん!悪いね、急に」
第一声がそれか?
黒田は妙にテンション高めでやって来た。上等なスーツ姿にスーパーの袋。袋からは葱とニラが顔を覗かせていた。
「なに?その格好!」
俺はその姿を見て吹き出した。
「なんだよ。別におかしかないだろ?」
「絶妙に似合ってないから」
黒田はえー、と口を尖らせながら中へ入って行った。ミーシャは何かを察したらしく、すでに自分の部屋に入ったっきりだ。
「三木に連絡した?」
「いや。してないけど」
俺がそう返すと、黒田は満足そうに頷いた。
「俺、勝手に徹ちゃんに連絡しちゃったんだよねー」
「は?それは駄目だろ?」
俺のツッコミに黒田は答えなかった。涼しい顔をしている。
「……っていうか“徹ちゃん“はやめろ」
「なんで?」
「なんでって……。会った時は水沢って呼んでただろ?」
「ああ。だって“徹ちゃん“って呼ぶと三木が嫌がるからさ。つい面白くて」
三木が嫌がると何か面白いのか?黒田は他人が嫌がるようなことは絶対にしない。三木とは産まれる前からの幼馴染だから、何か特別な意味でもあるんだろうか?
俺が首を傾げていると、黒田は微笑みながら俺の頭にポンと手を乗せた。
「俺は感謝してるんだ」
黒田はそう言った。意味は全く分からなかったけれど。
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