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黒田はあれからずっとビールを飲み続け、始終ご機嫌だった。三木はそんな黒田を苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。
俺は二人は不思議な関係だなってずっと見ていた。なにか大事なことを言ってるように感じたんだけど、主語がないから俺にはさっぱり分からない。けれど二人の間では会話は成立していた。こういう友人関係ってなんだか羨ましいかも。
俺が風呂から上がると、ソファで爆睡していた黒田に既に毛布が掛かっていた。三木がどこからか出したようだった。三木はソファの前に座って何か見ていた。
「三木?」
俺が声をかけると、灯りを落としたリビングで三木は振り向いた。手には俺のスケッチブックを持っていた。
「それって……」
「ごめん。また見ちゃった」
「いや、それはいいんだけど」
三木は立ちあがって俺のほうまでやって来た。俺にスケッチブックを差し出す。
「ミーシャ、可愛く描けてた」
「ミーシャはもとがいいから」
俺がそう答えると三木は薄く笑った。
「それと……」
三木はそこまで言うと少し言い淀んだ。
「黒田、描いてあったね」
「ああ、うん」
俺は曖昧に頷いた。
「あんま上手く描けなかったけど」
「そう?黒田の特徴よく描いてあったよ。犬っぽいとことか」
それは犬を思い浮かべて描いたからって言うか。
「黒田に練習してみろって言われてさ。ほら、黒田って練習の鬼じゃん?」
俺は少しおちゃらけて答える。隠してることがバレないように。
「───上手くなくても描いて欲しかった」
え?
俺は聞き間違えたかと思って聞き直そうと思った。けれど三木はそう言うと、おやすみと早口で言ってリビングのドアを閉めてしまった。俺は三木がどんな顔をしていたのか見えなかった。
俺がリビングのドアの前で立ち竦んでいると、脚にぽふんと何かが当たった。ミーシャが俺を見上げていて、目が合うと鼻をフンっと鳴らして俺の部屋に入って行った。
次の日の三木はこれまでと同じように俺に接してくれた。
黒田はいつもより多めに三木にどつかれていた。黒田が何故か嬉しそうだったのは不思議だったけど。
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