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第四章
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その日、珍しく三木から電話がかかってきた。
『これから急に出張になっちゃって』
どうやらトラブルが起きてすぐに向かわないといけないらしい。担当社員は病欠していて、待っている時間はないようだった。そこそこ遠い距離の場所だ。しかもこれから向かっても先方に会えるかどうか分からないらしい。拗れることも予想して二、三日は向こうにいるそうだ。
『ごめん』
「なんで謝るんだよ。仕事だろ?気をつけて行って来いよ」
三木は珍しく元気なさそうに返事をすると電話を切った。
会社員も大変なんだな。俺はそんなことをのんびりと思った、その時は。
三木の帰って来ない部屋は何か妙に静かで、それに俺には広すぎた。ミーシャと昼間過ごすぶんには気にならなかったけれど、夜は酷く寂しく感じた。いつも三木の帰りは遅いけれど、帰って来ないとなるとそれは別の話だった。
一日目の夜は早々にミーシャと一緒にベッドに入った。
二日目も同じように早目にベッドに転がる。三木は二日目は仕事が少し落ち着いたようで、メッセージアプリに連絡をくれた。
というか送りすぎなんじゃないか?と俺は思うぞ。
『今からご飯〜!』でご飯の写真。街は賑やかだよ、ホテル着いたよ、部屋で一杯……全部写真付きで。ヒマなのか?よっぽどそう言ってやろうかと思った。
『お土産なにがいい?』
旅行じゃないんだから。俺はついひとりごちた。
お土産か。そんな浮かれた楽しいことは中学の修学旅行が最後だった。旅行なんてそんなことをする余裕はなかった。
中学の修学旅行もお土産なんて買うお金はなかったけれど、それでも母さんが持たせてくれたお金で、なんかその土地のベタなお菓子を買って帰った記憶がある。それでも母さんは喜んでくれたっけ。
俺は『そこの名産のベタなお菓子』と返信した。
三木からは『そんなにお菓子とか好きだった?』というメッセージと共に、リスがりょーかいと敬礼するスタンプが送られてきた。
俺はふふって笑ってしまった。そしてそのうち眠ってしまったようだった。
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