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目を開けると知らない天井がそこにはあった。少し視界がはっきりしてくると点滴の入った袋が目に入った。
そして俺の腕のそばには三木の頭があった。
触れたい。そう思ったがどちらの手も動かせそうになかった。
「……三木?」
そっと呼んでみる。三木の頭がピクリと動いた。
「三木?」
三木の肩が撥ね、顔を上げた。
「あの…」
俺がそう言うと、三木ががばりと覆い被さってきた。
「───よかった……!やっと目覚ました!」
三木はギュウギュウと俺の首に抱きついた。おい、苦しいぞ。
ただ三木は少し涙ぐんでいたようで、俺の頬に冷たいものを感じた。だいぶ心配かけてしまったようだ。
「徹が倒れてて心臓止まるかと思った」
倒れてたわけじゃないけどな。まあ、寝てたし身体は動かなかったわけだし、似たようなもんか。
俺の首元からやっと腕を離してくれた三木を眺める。三木はだいぶ憔悴していた。髪も乱れていたし、顔色も良くない。
「あの女がまた来たんでしょ?何で中に入れたの?」
三木は忌々しそうに吐き捨てるように言った。
「───どうにかして中に入ったみたい。夜中にドアを叩かれて起きた。黙ってたら鍵を壊して入ってきそうな勢いで。それで……出て行っちゃったんだけど」
三木は舌打ちをした。
「徹が目を覚ましたら警察が詳しく話を聞きたいって言ってたんだけど、大丈夫そう?」
「俺は平気だけど……その、三木は大丈夫なのか?」
俺がそう言うと三木はキョトンとした顔をした。
「何が?」
「いや、その、会社にバレたら困るとか……」
俺は会社員だったことはないし、そういうのって何かマズそうな気もするんだよな。
「───もしかしてそれで救急車呼ばなかったわけ?」
「事情がよく分からなかったから」
あのさあ、三木は呆れたような声を出した。そしてすぐに溜め息をついた。
「もう警察には話してあるし。それに……そんなこと気にしないで救急車呼んでくれよ。徹に何かあったらどうしたらいいか分かんないし」
三木は困ったように俺を見た。そして何か言いたげだったけれど、そのあとに続く言葉はなかった。
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