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三木は電話が終わるともの凄く不機嫌そうに戻ってきた。
どうやら今回の件で先方が非常に喜んでいて、明日こちらに来る用事があるから飲みに行かないか?という誘いだったらしい。いわゆる接待ってやつだ。どうやら三木の後を引き継いで処理した黒田とも意気投合したのも理由みたいだった。三木は行きたくないって暫く駄々をこねていたが、終いには説得されたようだ。
「黒田だけ行けばいいじゃん。僕はそもそも担当でもないし」
そうぼやきながら部屋から出てきた。
「はい。これ」
そう言って俺の前にカラフルな包み紙に包まれた箱を差し出した。
「なに?これ」
「お土産。ベタなお菓子って言ってたし、急いでたから駅で適当に買ってきた」
ありがとう、俺はそう言って受け取った。ペリペリと何とか包装紙を剥がして箱を開けた。中には小さく個包装されたお菓子が並んでいた。それを見ただけで何だか懐かしい思いがしてきた。一つ取って口に入れた。それはどこにでもあるようなスポンジケーキにチョコが掛かったものだったけれど、スゴく美味しく感じた。
「……美味しい。ありがとう」
俺がそう言うと何故か三木は黙り込んでしまった。
「三木?食べないの?」
俺がそう言うと三木は黙って一つ取って食べた。何も言わなかった。
俺はもう一つ取って食べた。何だか幸せな気持ちになった。
「───もっとちゃんと選んで買ってくればよかった」
三木は不機嫌そうにそう言った。
「え?美味しかったよ」
「こんなのどこでもありそうなやつじゃん。味も大して変わらないし。パッケージが違うだけだろ」
「そう?俺はあんまりそういうの分かんないから……」
「徹はお土産とかあんまり買わないの?」
「お土産っていうか旅行自体行かないし。お土産も中学の修学旅行以来だよ」
俺はそう言ってわざと笑顔を作った。
三木は仕事や遊びで旅行なんてあちこち行けてるんだろうけど。俺はそういうのは行ける環境になかった。だからお土産ってだけで特別なんだ。きっと言っても分かってもらえないと思うけど。
俺が膝に乗せたままのお土産の箱を閉めようとすると、三木が急に抱きついてきた。
「うおっ。なに!?」
「一緒に旅行に行こう」
「いや、無理だって。いま家も無いんだぞ?」
「え?出て行くの!?」
「そりゃずっとお世話になるわけにはいかないだろ」
「僕の世話は?」
うーん。それは確かに。黒田が言う通り生活能力はないもんなあ。ここで住み込みの家政夫として働かせてくれるなら、それも悪くないかもしれない。
「まあ、三木がいいなら」
「じゃあ一緒に旅行に行こう!」
「家政夫が一緒に旅行とかあんま聞いたことないけど」
「家政夫?誰が?」
「え?俺、家政夫じゃないの!?」
「……まあ、そう言われればそうなんだけど」
三木はそう言うと頭を俺の肩口にぐりぐりと当ててきた。何だか大きな犬が甘えてきてるみたいだった。俺は仕方ないなあとばかりに三木の頭を撫でた。やっぱり髪がサラサラで気持ちいい。それで調子に乗ってずっと撫でてしまった。三木はそのうち頭を肩に預けておとなしくなった。どうやら落ち着いたらしい。
「───徹は僕の大事な人だから」
小さな声だったけれど、確かに三木はそう呟いた。
どういう意味なんだろう。
俺はどう答えたらいいか分からず、黙って三木の頭を撫で続けた。
自分のせいで学校を辞めたと思ってたから?(実際は違ってたけど)
それとも命の恩人だから?(って黒田は言ってたけど)
どっちもなんかピンとこない。
ずっと仲良くなりたいって思ってたから?……たぶんこれが一番近いのかなと思う。どうして仲良くなりたいなんて思ったりしたのかな?三木も絵を描いたりすることが好きだったりするのかな?そういえば俺は三木のことあんまり知らないんだな。高校の頃、ずっと盗み見しながら三木を描いてたというのに三木のことを知らない。三木が悩んでいたことも知らなかった。
俺も三木の表面しか見ていなかったのかもしれない。
しかもこんな甘えたなことも知らなかった。俺も母さんを早くに亡くしたと思っていたけど、三木はもっと早くに亡くしている。
甘えたいのかもしれないな。
俺はそう思うと三木の頭を撫でることもなんだか愛おしくなってきた。
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