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「あの」
俺はガードレールに凭れながらぼんやりと雑踏を眺める三木に声をかけた。三木は俺が声をかけるとすぐに振り返った。
「終わった?」
「あの。飲みになんか行きませんよ」
「なんで?」
なんで……って。むしろどうして飲みに行きたいのかが分からない。
「お酒飲めない?じゃあ飯でもどう?」
「あの、お酒も飯も物理的に無理なんで」
「物理的?」
「お金ないんで」
俺はそう言ってやると踵を返した。今なら閉店間際のスーパーの惣菜が買えるかもしれない。もうすぐ閉まるからこんなところでグズグズするわけにはいかないんだ。
不意に俺の腕が掴まれた。
「待ってよ。奢るって」
「いや、奢ってもらう理由はないです」
「久しぶりの再会を祝して、とか」
「それなら俺も同じだから、奢ってもらう理由にはならないです」
「じゃあさ、徹の家で宅飲みってのはどう?それならお邪魔する僕が奢ってもおかしくないでしょ?」
うーん。俺は三木の掴んでる手を剥がした。
「それも物理的に無理」
三木はキョトンとした顔で俺を見た。
「ね?無理でしょ?」
俺は無理やり着いてくる三木を無視して、近くの大きな公園にたどり着いた。運よくベンチが空いていた。俺はそこに座り、持っていたリュックから簡易寝袋を取り出した。
「朝までならここで寝てても見逃してもらえるから」
本来ならお金も入ったことだし、スーパーに寄ってからネットカフェにシャワーしに寄る予定だった。まあ明日仕事がなかったから、それは明日でもいいや。
「ということだからさ。悪いけど俺寝るから」
俺は寝袋に包まった。本当なら何か食べたいんだけど、三木の顔を見たら食欲もなくなってしまった。
「……嘘でしょ?」
やっとのことで三木が言った台詞がそれだった。
嘘なわけあるか。確か三木はどこだかの社長の息子だと聞いた。どおりで彼女のはポンとお金を渡すし、スーツも上等なのを着ているわけだ。
「はいはい、もう帰りなよ。おやすみ」
俺はそう言うと寝袋の紐を閉めた。風が入ってくると寒いからな。
「───住むところがないんだ?」
俺は答えなかった。もう面倒くさい。しかも身体も少し温まってきたから、今のうちに寝てしまわないと本格的に寒くなってしまう。
「じゃあ僕の家に住んでも問題ないよね?」
俺はうとうととしていて、ちゃんと聞いてなかった。
急に身体が宙に浮く───はい!?
俺は三木の肩に担がれて拉致された。
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