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黒田の寄せ鍋はもの凄く美味しかった。
「凄く美味しい!黒田のお母さんって料理上手なんだね!」
「おう。伝えとくわ」
「あんまり大袈裟に言うなよ?」
何故か三木はそこで釘を刺した。
「おばさん、徹に会いたいから連れて来いって絶対言うだろ?」
「ざんねーん!もう言われてる。なんならここまで来るって言ってたからな」
黒田がそう言うと三木は咽せてた。
「“蒼ちゃんは私の息子みたいなものだし、息子の命の恩人なら私も御礼しなくっちゃ!“だって。相変わらずぶっ飛んでるだろ?」
「───お願いだからここに来るのは断っといてくれよ?」
「だったら早めに俺の実家に顔出せよ。マジで来るぞ」
三木は溜め息をつき、黒田は愉快そうに笑った。
「どうせ余計なこと言ったんだろ?」
「え?三木が合コンで引っ掛けた女にストーカーされた挙げ句、代わりに帰る家のない同級生が刺されたって?」
「悪意に満ちた情報提供」
「まあ小一時間説教されるだろうな」
「───ごう、こん」
合コンってどんな感じなんだろうとか思ってたら、どうやら口に出てしまっていたらしい。二人が同時に俺を見つめていた。
「なに、徹ちゃんは合コン行きたいの?」
「いや、あの……行ったことないから、その、どんな感じなんだろうなって」
「ただの飲み会だよ」
三木は吐き捨てるように言った。
「そっかあ。徹ちゃんは合コン行ったことねえの?」
面白がる黒田を三木は睨んだ。けれど黒田はそんなことはお構いなしという感じで話を続ける。
「うん……行ったことはないかな。なんかゲームとかして盛り上がったりするんでしょ?」
「王様ゲームとかポッキーゲームのことか?確かに学生の頃はそんなことして盛り上がってたけど、今じゃもうやらないな」
「王様、ゲーム?ああ、王様がなんか言ってそれを必ずやるってやつ?」
「そうそう。2番と5番がキスとかそういう感じ。なんかやたら盛り上がってたけど、今考えたら無茶苦茶だよな」
へえ。そんな感じで盛り上がるんだ。
「徹ちゃんは合コンじゃなくて何してたわけ?出会いはもっぱら職場?」
「出会い……?いや、職場はおっちゃんばっかだったし」
「じゃあ何して遊んでた?」
遊んでた……?家で絵を描くとかそういうことを黒田は聞いてるわけじゃないんだよな?そんなことあったか?
俺は数少ない記憶を引っ張りだす。
「ああ、一回だけおっパブに連れて行ってもらったことならある」
俺がそう言うと黒田は目を丸くして、三木は隣で酷く咽せていた。そしてあまりに咳き込みすぎて、冷蔵庫に水を取りに立ち上がった。
「……まさか徹ちゃんからおっパブって言葉が出てくるとは思ってもみなかったな」
「うん……なんか田中さんが競馬に勝ったからって連れてってくれたんだ」
「田中さん?」
「職場の同僚だったおっちゃん。なんか万馬券当たったから奢ってやるって」
「それで連れて行ってもらったんだ?」
俺は頷いた。
「で、どうだった?」
「どうって……。俺、途中で鼻血出しちゃって。ずっと女の子の膝に寝せてもらってた」
黒田はそれを聞いて爆笑していた。まあ、そうだよな。普通は笑うところだ。しばらく職場でもネタにされたくらいだからな。
くそ。笑いたきゃ笑えよ!
「風俗はそれっきり?」
黒田は半泣きしながらそう言った。笑いすぎだぞ。
「風俗?ああ、うん。それ以来誘われてないし」
俺はふいに頭に手を置かれたのを感じた。そのまま優しく撫でられる。顔を上げると水のペットボトルを手に持った三木が立っていた。俺の頭を無言で撫でていた。
三木は今の話を聞いても笑わなかった。それが少し嬉しかった。
「三木も黒田も合コンにはよく行くの?」
黒田が落ち着いてきたので、俺も聞いてみることにした。
「最近じゃ仕事が忙しいからあんまり行かないな」
「それってどこでそう言う話になるの?」
「会社の女子に誘われたり、取引先で声かけられたりとか。な?」
黒田が三木に振ったけれど、三木は答えなかった。
「三木もそんな感じ?」
俺がそう聞くと三木はあからさまに嫌そうに答えた。
「一人で飯食うよりはマシだから」
そんな理由で行くんだ?俺が首を傾げてると、黒田がまたクツクツと笑い出す。
「三木が来るって言うと喜ばれるしな」
「ヒトのこと言えないだろ」
確かになあ。両方ともモテるんだろうなあ。背は高いしイケメンだし、いい会社に勤めてるし。なんか納得。俺も女子ならきっと一緒にご飯食べたいと思うだろう。
俺は勝手に納得してモソモソとご飯を食べ始めた。
だから二人がジッと俺を見ていたことなんて気が付きもしなかった。
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