第六章

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第六章

**  あれから特に変わったことはない……と言えば嘘になる。  黒田からは毎日メッセージが届くようになったし、三木は帰ってくるなり距離がゼロになった(つまり帰ってくるなり抱きついて離れないってこと)。ついでに毎日好き好き言ってくるから、もうすでに挨拶と変わらないんじゃないかって思ってる。  俺の怪我もだいぶ良くなって、料理も変わらずに出来るようになった。けれどあんまり揚げ物なんかはしないよう三木に言われている。過保護すぎ。  すると今度は黒田からお弁当を作って貰えないかと依頼が来た。お金は払うと言ってきたので、三木に相談した。三木はすっごい嫌そうに舌打ちしてたけど、俺が一人分も二人分も変わらないよと説得したら嫌々許可してくれた。  休日───。  俺はソファで寝転びながらパソコンを弄る三木に勇気を出して言ってみる。 「ねえ、三木のこと描かせてくれないかな?」  三木は目を丸くして俺を見た。 「……描いてくれるの?」  俺は頷いた。  三木はどうしたらいい?とウキウキとしていたけれど、俺はそのままでいいと言った。  俺はソファで寝転ぶ三木を床の上に座って描き始めた。 「───ねえ、動いてもいいの?」 「普通にしてくれてればいいよ。パソコン見といて」 「それだと何か集中できない。話しててもいい?」 「うん。別にいいよ」  俺は鉛筆を走らせながら答えた。  黒田を描いた時は鉛筆が紙に引っ掛かる感じがして上手く描けなかったけれど、今は平気だった。  それに───あんまり描きたいと思えなかった三木が、今では描きたくて仕方なくなってる。不思議な感じだ。高校の頃の氷のような冷たい美しさはなかったけれど、なんだかほんわかした雰囲気は別の意味で美しいと思った。 「黒田が来た時にさ、僕付き合った人がいないって言ったじゃん?」 「ああ、そういえばそうだったね」  確かにあれは俺の理解を超えていたので覚えていた。 「あれはちょっと違うんだ。付き合った人、過去に居る」  そうか。それはそれで納得できるわ。というかそれなら普通で安心したぞ。 「そうなんだ」 「気になる?」 「うーん。まあ」 「そこは気になるって言ってよ」  三木は苦笑した。 「中学の頃、ちょっといいなって思ってた子から告白されて付き合ったんだ」  中学……ちょっと予想とは違ったけど。きっと中学の頃から三木はモテたんだろうな。 「けど三ヶ月経たないで別れちゃった」 「なんで?」 「───僕が凄く嫉妬深いって気が付いたから」  ん?なんか思ってたのとは違う答えが返ってきたぞ。 「相手が、じゃなくて?」 「ううん。僕、が」  三木は思い出すように遠い目をした。 「その子が友達と話してても気になるし、約束は僕を最優先してくれないと嫌だった。他の子と遊ぶなんて許せなかった。ずっとずっと一緒にいたくて、家に閉じ込めておきたかったくらい」  三木が?  俺は本人がそう言ってるにも関わらず、にわかには信じられなかった。こう言っちゃなんだけど、他人には関心ありませんみたいなイメージしかない。
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