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「───やっと落ち着いたね。いらっっしゃい」
俺は川沿い近くのタワーマンションまでタクシーで連れて来られ、高層階で降り、その一室に連れてこられた。言うまでもなく凄く立派なマンションだった。その立派な部屋のこれまた高そうなソファの上に降ろされた。
寝袋のままでだ。
え……っと。俺は部屋を見廻す。シンプルだが一つ一つが高そうな物が置いてある広いリビング。そこには大きな窓が嵌まっていて、ちょっとしたベランダが付いていた。お決まりのデッキチェアが置いてある。キッチンはそんなに広くはなかったが、お洒落な小物で纏められていて、まるで雑誌の1ページのようだった。リビングから続く部屋が一室あるようだった。扉は閉まっていたけれど。
長い廊下にも扉は幾つかあったので、一体幾つこのマンションには部屋があるんだろうか。
「ここ、僕の家」
はあ。
「そりゃ、どうも」
俺は寝袋を被ったまま頭を下げた。慌てて紐を緩め、頭から寝袋を取った。
「それで?」
一体何のためにこんなところに連れて来られたのだろう。
三木はそれには答えずに大きな冷蔵庫を開けると、そこからプレミアムの缶ビールを取り出し俺の前に置いた。そしてソファの端の肘掛けに凭れ、ビールのプルタブを引いた。
「徹もどうぞ?それともホントにお酒はダメ?」
あー。いや、そんなことはない。決して強くはないけど。
俺は慌てて寝袋から出る。そして雑にくるくると纏めた。そしてプレミアムビールのプルタブを引いた。こんな高い缶ビールはいつ以来だろうか。嗅ぎ慣れないいい香りがした。
ひと口飲むと芳醇な味わいがした。あ、つい飲んでしまった。
慌てて俺は三木に頭を下げた。
「ごちそうさまです」
「そんなに畏まられてもさ」
三木は可笑しそうに笑った。そんな顔、高校時代には見たことなかったけどな。いつも気怠そうで、微笑みは氷のようだった。まるで感情なんてないように。そこが人間離れしていて、俺が目が離せなくなったわけだけど。
三木は高校時代とはずいぶん変わっていた。確かに三木の面影はあるんだけど、高校時代は気怠げで大人びていて今よりもずっと線が細い印象だった。何というか中性的な人間離れした存在だった。
けれど今俺の前にいるのは、しっかりしたエリートサラリーマンって感じだ。見た感じも線はしっかりしていて、よくも悪くもよくいるお金持ちのモテそうなリーマン。ただそれだけだった。
「えっと……なんで俺がここに?」
「久しぶりに会った同級生を飲みに誘っちゃいけない?」
いや、いけなかないけど。それはあくまで仲が良かったとか、一緒に卒業したとかだろ?俺はそのどちらでもない。俺ははあと曖昧に返事をした。どうでもいいが、ビールをご馳走になったらお暇しよう。せっかくの機会だ。面倒なので何も考えずにビールに集中しよう。
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