番外編

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**  結局相当の時間を使ってお茶の用意をして、何とかリビングに移動した。  っていうか家政夫を真ん中にして両脇に兄貴と蒼兄が座る。  なんで!?しかも距離近くねえ!?なんで二人とも家政夫に凭れるように座ってんだ? 「このお菓子美味しいですね!」  どうしてこの家政夫は平気な顔してんだ!? 「これはガレット・ブルトンヌっていうの。フランスのブルターニュ地方のお菓子よ」 「これって自分で作れたりするのかなあ」 「作れるわよ。今日は買ったものだけど、自分で作ったりもするわ。ただこんなふうに綺麗には出来ないけどね」 「あの、教えてもらえたりします?」 「ええ!ぜひ!」  うわ……。この家政夫すごいな。さっきから母さんの喜ぶことばっか言ってる。狙って言ってるわけじゃないだろうけど。 「徹はお菓子好きだった?」 「いや。そんなには食べないけど、作ってみたいなって思って。三木も黒田も嫌いじゃないだろ?」 「無理に作らなくていいよ」 「家政夫になってから、なんか料理に興味が出てきたんだよ。やっぱ家政夫なんだから料理は出来たほうがいいだろ?」 「いや……家政夫っていうのは、その……ただの理由っていうか」  あの蒼兄が困った顔をしている。兄貴は何故か爆笑していた。 「料理も芸術なのよね。徹くんが興味を持つのは分かるわ!」  あー、母さんもなんだか斜め上な気がするわ。家政夫だけが母さんにはい!って答えてて、蒼兄も兄貴も困った顔をしていた。 「夕飯何が食べたい?」  母さんはどうやら作る気マンマンらしい。 「すごく料理上手ですよね!キムチ鍋も寄せ鍋も美味しかったです」 「嫌だわ。あれは料理ってほどじゃないし。そうだ!徹くんは何が食べたい?一緒に作らない?」 「え!?いいんですか!わあ、嬉しいな」  マジか……家政夫。俺はできれば手伝いなんかしたくないけどな。 「だったら、あの、ハンバーグの作り方教えて貰えませんか?」  家政夫は恥ずかしいのか声が小さくなった。 「ハンバーグでいいの?」 「はい。俺、料理は大家の婆ちゃんから教わってたんですけど、ハンバーグは教えて貰ってないから」 「大家のお婆さん?お母さんじゃなくて?」 「あ、母さんは仕事で忙しくて。俺が殆どご飯作ってたんです。だから母さんにはハンバーグは結局作ってあげられなかったっていうか」 「ごめんなさい。もしかして亡くなったの?」  家政夫は頷いた。 「だからまだ三木と黒田にもちゃんとしたのを作ってあげられなくて。あ、もちろん外で食べたほうが美味しいとは思うんですけど」 「「そんなことない」」 「じゃあ外で食べるのと変わらないように作りましょうか!頑張って教えちゃう!」 「ありがとうございます!」  わー。母さんも家政夫も兄貴と蒼兄を置きっぱなしだよ、おい。  母さんはそもそも教えるのが好きだし、なんというかお嬢様育ちのせいか可哀想なものが放っておけないタイプなんだよな。ボランティアの数もハンパないし。  兄貴も蒼兄もそんな感じだったか?いや、そんな記憶はないけど。他人に同情するようなタイプではなかった気がするんだよな。  母さんはエプロンを用意してくるわねと言って出て行ったけど、絶対自分の冷蔵庫から高級和牛とか取りに行ったよな。そのまま焼いて出してくれればいいのに。絶対ミンチにして持ってくるだろ。  母さんが部屋を出ると蒼兄はすぐに家政夫の肩に頭を乗せた。 「徹が僕に隠し事ばっかりしてる」 「してないって」 「してたじゃん」 「三木。帰ってからちゃんと聞いてやれって」 「それだけじゃなくて野草摘みに行ってるとかハンバーグ食べたいとか。早く言ってくれれば店予約したのに」 「ハンバーグを食べたいんじゃなくて三木と黒田に作ってあげたいんだよ」 「マジ!?」 「あ、黒田のお母さんに教えてもらうんだから、黒田はむしろ家で食べたほうがいいよね?ごめん、気が付かなかった」 「分かってねえのかよ」  今度は蒼兄が愉快そうに笑っていた。兄貴は困った顔をしている。 「そういえば黒田。ハーブティーどうだった?美味しかった?」 「まあ悪くなかった」 「じゃあ教えて貰ったから今度来たら同じの淹れるね」 「徹ちゃんが淹れてくれるわけ!?じゃあすぐにでも行くわ」 「一生来なくていい」  さっきから微妙に会話がおかしくないか?内容もずいぶんおかしいけど、噛み合ってないっていうか……。ついでに兄貴と蒼兄はこんなに砕けた言い合いなんてしてただろうか? 「徹くーん!ちょっと手伝ってくれる?」  母さんの声がした。どうやら専用キッチンからいろいろ持ち込むようだ。家政夫はパタパタと駆けて行ったが、どうやら二人も座ってる気はないらしい。なんなんだ?過保護か!? 「今日は牛が飛騨牛でね、豚は三元豚を使おうと思うの。だから相当美味しくなるわよ!」  荷物をいっぱい抱えた母さんは戻ってきて嬉しそうに言った。っていうかそのままステーキとかで食べさせてくれよ!  どいつもこいつもズレてる気がしてきた……。
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