番外編

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「徹くんの趣味はなにかしら?絵を描くこと?」  母さんがどうやら気を利かせて家政夫に話を振った。 「そうですね。絵を描いてるのが一番楽しいです。あと最近は料理かな。家政夫なんでもっとレパートリーを増やしたり上手になりたいです」 「まあ、仕事熱心なのね」 「三木も黒田も忙しいから、二人が頑張れたりリラックスできたりする料理ができたらいいなって」 「徹が作ったのならなんでもいい」 「あら、蒼ちゃんそういうのは良くないわ。せっかく頑張ろうとしてるのに。ね?」  どうやら母さんは嗜めたり叱ったりする時には“ちゃん付け“に戻ってしまうようだ。子どものつもりなんだろうか。 「なんでもいいって何か投げやりよね。頑張ったら褒めて欲しいのに」 「まあ、そうですね」 「おい三木。ちゃんと徹ちゃんのこと褒めてるのか?」  蒼兄は兄貴の質問に答えなかった。眉間に皺を寄せている。 「三木は甘やかしすぎて褒めてなさそうだもんな」 「そんなこと……ねえ、徹。僕ってそんなに褒めてない?」 「うーん、いつも美味しいって言ってくれてるから、気にしたことはないかな」 「あら。いつも同じじゃ頑張り甲斐がないわね」 「あ、別に褒めてくれなくていいんです。俺が作ってあげたいだけだから」 「それって僕が褒めてないって言ってるようなもんだよね!?」 「俺は徹ちゃんの生姜焼きはめちゃくちゃ好きだね。味濃くて好き」 「兄貴は米が食えればいいんだろ?」 「それもそうだけど、徹ちゃんのはめちゃくちゃ美味いの」 「じゃあ黒田が来た時はいつも生姜焼きでいいよ、徹」 「筑前煮も卵焼きもうめえの」  うわ、婆ちゃんっぽいラインナップだな。 「あら、じゃあ私も食べてみたいわ」  あ。しまった。母さん忘れてた。 「徹くんの料理食べてみたいな」 「いえ、あの……お洒落なのとか作れないから。なんていうかお弁当が茶色くなっちゃうんです」 「お弁当?」 「はい。三木と黒田が一応仕事しながら食べられそうなのを考えて作ってはいるんですけど、なんかいつも同じになっちゃって」 「「仕事しながら?」」  兄貴が?仕事嫌いなのに?  俺と母さんは同じことを思ったのだろう。目が合った。 『昼飯と仕事終わりのビールが楽しみで仕事してる』とかこないだまで言ってなかったか? 「俺、サラリーマンとかになったことないんでよく分からないんですけど、昼飯を食べる時間もないくらい忙しいんですね。そんなんじゃ身体壊しちゃいますよね。だからもうちょっと俺ができることをしてあげたいっていうか」  いやいやいや。サラリーマンでも昼休憩とかあるからね。しかも兄貴は結構いろんな店のランチ開拓してたし。  俺は兄貴と蒼兄の顔を見た。二人とも涼しい顔してしらばっくれている。この家政夫に心配して欲しいっていうか構って欲しい気マンマンじゃん。 「そう。そんなに仕事忙しいのね。それは心配よね、家政夫としては」  え?母さん、それ本気で言ってんの?それとも…… 「徹くんを応援したくなっちゃったな。どう?一緒に勉強しない?」 「「「は?」」」 「え?」 「蓮と蒼ちゃんのこと考えてくれてるんでしょ?私だって心配だもの。一緒に考えてあげられたら嬉しいわ」 「あの、料理とか教えてもらえたりします?図々しいですけど」 「私でよければ」 「あ、ありがとうございます!」  いや……。それはやり過ぎだと思うっていうか。俺は恐る恐る兄貴と蒼兄の顔を伺う。二人とも顔がもの凄く引き攣っていた。 「いや、母さん?そこまでしなくていいっていうか」 「そうそう。僕たちは徹に作ってもらえればそれでいいっていうか」 「あら。徹くんが向上しようって思ってるのを助けるのは当たり前でしょ。しかも仕事とはいえ他人の健康をそこまで気遣ってあげられるのって偉いわ。家政婦がそういうところを目指していくのもいいと思ったの」  あー。なんか拗らせ始めたぞ。こうなるとなかなかに厄介な人なんだよな、うちの母さんって。
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