番外編

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 俺はちょっと自慢の皿を取り出してやった。確かちょっと高かったヤツ。せっかく作った料理が少しでも美味しそうに見えるように。家政夫はどんな皿なのかなんて知らないみたいだったけど。  それをソファのところまで持っていく。 「お。美味そう!」  父さんが声をあげた。相当機嫌が良いらしい。声がデカい。 「これってなんて料理?」 「なんかフランスの煮込み料理らしいです」 「フランス?」 「ワインっていうからフランスの料理かなって」  そこまで聞くと父さんは声をあげて笑った。 「いいねえ、君!そういう単純なところがいいね!」  総一朗おじさんは既に口をつけていた。 「うん。美味しいね」  食べるとすぐにそう言った。家政夫は嬉しそうに照れていた。 「ありがとうございます」  どれどれと父さんも口をつけた。 「お!美味いね!ワインに合うよ!」 「あ、ありがとうございます!」  二人とも美味しい美味しいと食べ進めようとしたら、手が出てきて皿を取り上げられた。 「もういいよね!」 「俺らのぶん無くなるし」  わ。でた!面倒くさい二人! 「三木、それはお父さんたちのぶんだから皿戻して。三木と黒田のぶんはちゃんとあるから」 「徹が作ったのは全部食べたい」 「頼まれたんだから仕方ないでしょ。持ってくるから待ってて」 「手伝う」  兄貴は率先して立ち上がって行った。蒼兄は面白くなさそうに皿を戻した。父さんも総一朗おじさんも何が起きたのか分からないみたいだった。  うん、わかるよ。俺も最初そうだったから。  すると父さんはいきなり笑い出した。 「いいね〜!君、面白いね!」  一人で爆笑してる。相当酔っ払ってる?総一朗おじさんは何も言わずに黙々と食べ進めていた。  兄貴と蒼兄の前に皿が置かれた。二人はすぐに食べ始めた。 「美味しいよ、徹。ほんと誰にも食べさせたくないくらい」 「おう。美味いな。飯なかったっけ?」 「三木はそんなこと言わない。黒田は食べ過ぎ」  家政夫がそう言うと総一朗おじさんはやっとフッと笑った。 「本当によくやってくれてるんだね」 「いえ。そんな」  家政夫は総一朗おじさんにそう言われて嬉しそうに照れた。兄貴はチラリと総一朗おじさんを見ただけだったけど、蒼兄は分かりやすく眉間に皺を寄せた。 「蒼也の家の仕事だけしてるの?他にも?」 「いえ。三木のところだけです」 「じゃあよかったら家にも来てくれないかな?週一回くらいで構わないから」 「え?」 「は?」 「独り暮らしだとね、なかなか家事が大変でね。休みの日に纏めてやってもいいんだけど、そうすると一日取られちゃうんだよ。だから手伝ってくれると嬉しい」 「お、俺なんかでいいんですか?」 「キチンとやってくれそうだって思ったんだけど、違うかい?」 「あ、いえ。あの……はいっ!」 「ちょっとそんなの勝手に決めないで。っていうかそれなら家政婦でもお願いすればいいじゃん?」 「だから今お願いしただろ?」 「そうじゃなくてちゃんとした会社に頼むとか」 「徹くんはちゃんとしてないのかい?」  蒼兄はそう言われてグッと押し黙った。  たぶん蒼兄の言いたいことはそういうことじゃないと思うよ、総一朗おじさん。 「何をすればいいですか?」 「徹」 「一日くらい大丈夫だろ?三木はそんなに部屋も汚さないし」 「そうじゃない」  ホントそうじゃないぞ、家政夫。 「そうだねえ、洗濯はお願いしたいかな。できれば掃除も。ああ、よかったらその日は一緒に食事を食べるかい?」 「ダメ」 「食事は一緒には無理みたいですけど、すぐに食べられそうなの冷凍しておくとかなら出来ます。洗濯も掃除も大丈夫です」 「ずいぶん厳しい雇い主なんだねえ。ところで幾ら払えばいいのかな?ちなみに蒼也のところは一ヶ月幾らでやってるの?」 「あの……それは言いにくいっていうか」  家政夫はチラリと蒼兄を見た。蒼兄は小さく首を振っている。 「でも基準が分からなければお願いしにくいよ?大丈夫、言ってごらん」  総一朗おじさんは優しいけれど、断らせない威圧感があった。 「えっと……じゅう、まんですかね」 「「「じゅうまん!?」」」
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