番外編

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「十万って十万円ってことだよね?」 「一ヶ月で十万……」 「はい。すいません、貰いすぎだとは思うんですけど」 「「「は??」」」  父さんも総一朗おじさんも俺もポカンとしてしまう。 「そんなん、居酒屋でバイトしたほうが稼げんじゃん?」 「そ、そうかな?居酒屋ではバイトしたことないから」  俺はつい口に出してしまった。いくらなんでもそれはなくない!? 「それはもともとが三十万で、家賃と光熱費と諸経費を除いて貰ってるってことかな?」 「え?いや……そうなの?三木」 「……違う」 「違うみたいです」 「それはお弁当も込みでその値段?蓮はいくら払ってるの?」  いつの間にかチーズの皿を持った母さんが聞いていたようだ。 「えっと、あの、黒田は払うって言ってくれたんですけど、靴とか鞄とかくれるんでそれで……。一人ぶんも二人ぶんも一緒だし」 「「払ってない!?」」  わ。母さんと父さんがハモった。 「蓮。どういうことか説明しなさい」  あー。母さん結構本気で怒り出したぞ。兄貴は食べるのを止めて、母さんに向き合った。 「いや、その、払うって言ったんだけど、一人ぶんも二人ぶんも一緒だって言うから。それで鞄とか靴とか服とか代わりに贈ったっていうか」 「物で渡すのは別でしょ?まさかそのほうが安く済むからってそうしてるんじゃないでしょうね?」 「鞄も靴もそれなりの値段だし!服だって……」 「それなり?」 「まあ十万しないくらい?」 「は?」  今度は家政夫が驚いていた。 「そんなにしたの?俺はてっきり五千円くらいだと……」 「なんでその値段!?そんなの贈るように見える?」 「いや、えっと。俺そんな高いの身につけたことないから」 「今日着てるシャツ、三万だけど」 「は?」  家政夫は慌てて脱ごうとするのを兄貴が止めた。いやいや、何やってるんだ?  っていうか兄貴、服を贈る意味分かってんだよな?分かってやってるなら確信犯だぞ? 「で、蒼也は何か買ってあげたりしてるのかい?」  総一朗おじさんは声を荒げたりしなかったけれど、かなり落ち着いた低い声で言った。ちょっと不機嫌なのかなって思う。 「……特に買ってないよ。っていうかそもそもそういうつもりでお金渡してないし」  ん?どういうことだ!? 「僕の全財産渡してるから」 「どういうことだ?」 「僕のブラックカードの家族カードを徹に渡してるし。だから徹は僕の財産を使いたいだけ使えるってこと」 「家族カード……作ったのか?」 「いつまでも僕のカードを渡しておくのもどうかなって思って。だったら家族カード作って渡した方がいいから」  ブラックカードの家族カード……。どうしたらそういう発想になるんだ!?  っていうか、重っ! 「え?アレって三木のカードじゃないの?確かに途中でなんか交換した気もするけど」 「僕の家族カードだけど徹も自由に使えるよ?」 「いや、アレは食材とか生活用品を買うヤツだろ?」 「徹が自由に使っていいんだよ?」  うーん、と家政夫が首を捻る。 「使うとこないから。文房具屋で使えないし」 「他に買いたいのとかないの?」 「うーん。ないかな。本は図書館で借りてくるし」 「───お茶は野草茶だし?」 「そうそう……え?」  何故か母さんが参戦してきた。 「使えるって知らなかったんでしょ?だから節約してた?」 「まあ、節約はしてましたけど、野草茶は好きで採ってきただけです」 「それは素晴らしいと思うけど、知らされないで節約してきたなんて徹くんが不憫だわ」 「あ、節約は根っから染み付いたものなので、そんなに苦じゃないです。それにお金はあんまり使いたくなかったから」 「あら、どうして?」 「いつでも出ていけるようにお金を貯めてるんです。まず住む家がないと仕事も決められないし。保証人のいらない物件ってそれなりに高いから」 「賃貸の保証人くらいならやってあげるわよ。徹くんならいいわ」 「え!ホントですか!?じゃあ三万くらいのアパートとか借りられます!」  待て待て待て待て。  勝手に話を進めるなよ、母さん。蒼兄いま固まってるから。 「───徹、出ていかないって言ったよね?」  蒼兄は絞り出すように小さな声で言った。 「だから三木に出て行けって言われたらの話だよ。お金なかったら住むところも借りられないだろ?住むところがなければ仕事も決まらないし。また路上生活はちょっとキツ……」 「出ていけって言うくらいなら家族カードなんて作らないよ!」 「だから家族カードってよく分からないんだよ。俺、カードとか作ったことないし」 「なあ三木。そもそもなんで家族カードなんて作れたんだ?」  兄貴がいい質問をした。 「担当の立石さんに頼んだ」 「うっわ、えげつな……。そんな無茶許されないだろ?」 「なんで?家族になるって説明したら案外すんなり納得してくれたよ?」 「つか家族がどうこうって話、徹ちゃんに言ってねえだろ」  兄貴にそう言われて蒼兄はグッと黙った。 「徹くん、すまないね」  総一朗おじさんが静かにそう言った。 「えっと、よく分からないですけど、俺べつに今の生活には不満はないんで」 「十万で満足してる?」 「はい!貰いすぎなくらいです!」 「じゃあ週に一回、私の家に来るのはお願いできるかな?一回三万でどうだろう?」 「そんな多すぎます!」 「その代わり君を一日拘束するよ?」 「はい?」 「だからダメ。仕事終わったらすぐ帰ってきて」 「蒼也。だったらお前が家に来ればいいじゃないか?自分の家だろう?」  なるほど……。そういえば実家に帰ってくるのは年に一回あるかないかだって、こないだうちで飲んだ時父さん愚痴をこぼしてたっけ。 「そっか、三木の実家だもんな。はい、だったら大丈夫です」  家政夫はニッコリと微笑んで返事をした。蒼兄はもの凄く不満げだったけど。
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