番外編 黒田編

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 俺は冷蔵庫からミネラルウォーターをとり出して一気に飲んだ。  ──乾いてる。  腹の中から湧き上がるような激しい渇感。  喉が乾いてると思ったのだが、そうでもないらしい。飲んでも飲んでも癒されることはなかった。結局500mlのペットボトルを一気飲みしてしまった。  飢餓感にも似た渇き。どうにも満たされなかった。  俺は仕方なく溜め息をついた。 「……蓮」  背後から声がかかる。俺は心の中で舌打ちをする。  黙って寝てればいいものを。いや、できれば終わったら帰って欲しかった。流石にそれを伝えることは出来なかったけれど。 「起きたら隣に居ないんだもの。寂しかった」  そう言って俺の背中に抱きついてきた。その身体は冷んやりとしていて、俺を不快にさせた。俺は横目で彼女を見た。ふわふわと柔らかい栗毛色の長い髪、華奢で抱きしめたら壊れそうなカラダ、上質な陶器のような肌。どれもこれも俺好みだった。  ───ま、だからこそセフレになったんだけどな。  俺は悟られないように自嘲気味に嗤った。  久しぶりに会って、激しい夜を過ごした。  それなのに何度欲を吐き出しても満足することはなかった。  ───乾いている。  俺はまたそう感じた。 「……ねえ、聞いてる?」 「あ、ごめん。聞いてなかった」 「私ね、蓮と付き合いたいって思ってるんだけど。彼とは別れてもいいと思ってるの」  はあ?  本気で口説いて寝てみれば、私には彼氏がいるからって言ってたのはどの口だよ?でもセックスの相性はいいからセフレでどう?って言ったのはそっちだろうが。 「悪りぃ。俺、本命いるから」 「は!?」 「それに彼氏がいるのに他のオトコと寝るオンナなんて彼女にしたいと思わねえよ」  明け方のキッチンにもの凄い音が響き渡った。
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