番外編 黒田編

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** 「……どうしたの黒田、その顔」  徹ちゃんはマスクを外した俺の顔を見るなり息を飲んだ。 「上がって!俺、冷やすもの用意するから」  そう言って三木の名を呼んでリビングの中に駆けていった。入れ違いに三木がやって来る。どう見ても機嫌が悪そうだ。 「今日はやっと徹と二人っきりで過ごせるって思ってたんだけど」  俺はそれには答えずに靴を脱いだ。 「しかもそんな顔して来たら徹は帰れって言えないじゃん」 「そもそも徹ちゃんは俺に帰れなんて言わねえよ」 「自業自得のくせに」 「うるさい」  リビングから俺の名を呼ぶ声がした。俺は前に立つ三木の肩を押し除けると中に入っていった。 「座って座って」  俺がソファに腰を下ろすと、徹ちゃんはすぐにタオルを俺の頬にあてた。冷んやりして気持ちいい。 「……痛む?」 「いや。気持ちいい」  徹ちゃんは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。正直全然痛くはないのだが、徹ちゃんが俺を心配そうに見る顔は悪くない。 「赤くなって腫れてるし。少し熱持ってるよ?」  徹ちゃんはそういうとタオルを外して、俺の頬に手を充てた。冷たいような温いような柔らかい手が気持ちいい。 「徹。そんなの自分で持たせておけばいいよ。わざわざ徹が冷やしてあげる必要はないって」 「でも」 「どうせどっかの雌猫にでもやられたんだろうからさ」  三木は鼻で嗤って俺を見た。この野郎。だいたいこういうのはお前の専売特許だったはずじゃねえか。 「猫?ああ、黒田って猫とは相性悪いよね。野良猫に手を出したの?引っ掻かれなかった?」  徹ちゃんがそう言うと三木が爆笑した。徹ちゃんはキョトンとした顔で三木を見る。笑い過ぎだ。  俺は仕方なく溜め息をつく。 「徹ちゃん。猫じゃなくてオンナにやられたの。セフレのオンナ」  俺がそう言うと徹ちゃんは固まってしまった。  えっと……とかあの……とか呟いてるけど、どうにも言葉が出ないようだった。そんな徹ちゃんの後ろで三木が鬼のような形相で睨んでいる。言っとくけど、オマエが散々やってきたことだからな!  そして保冷剤を取り替えてお茶淹れてくると、パタパタとキッチンへ行ってしまった。
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