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「で、どこのオンナ?」
三木は呆れたように言った。
「丸菱商事の受付」
三木は眉間に皺を寄せた。言われなくても分かってる。丸菱とウチはライバル会社だ。
「向こうが気があるような態度だったんだよ。それで食事に誘った。三回目のデートで寝た後で、彼氏いるけど相性いいからセフレでどう?って言われた」
「はあ?ヤった後で彼氏いるとかないじゃん!?聞かなかったのかよ?」
「彼氏いたら誘っても断るだろうと思ったんだよ。オッケーだったから居ないもんだと……」
三木は頭を抱えた。
「相手が一枚上手だろ。黒田、抜け過ぎ」
「うるせえ。そんな慣れてねえわ」
「で、彼氏って誰だか知ってるわけ?」
「丸菱の営業一課の髙木」
そう告げると三木の顔色が変わった。
「で、なんて言って揉めたわけ?」
そう三木が言うと徹ちゃんがお茶を持って戻ってきた。保冷剤を包んだタオルを俺の頬にあてた。
「少し冷たいけど我慢して。あ、このお茶は黒田のお母さんに教えてもらったハーブティーだよ。あの……俺、あっちに行ってようか?」
徹ちゃんは俺と三木が話してるのを見て、そう言った。
「ダメ。徹は今日は僕とずっと一緒にいるって言ったでしょ」
「でも……二人で話すことがあるだろ?」
「二人だけで話すことなんて何もないよ。徹が気にすることなんてないから」
三木はオロオロする徹ちゃんを後ろから抱えて、床に座らせた。相変わらず距離感ゼロだな。
「黒田のバカな話を徹も聞いて」
三木がそう言うと徹ちゃんは困ったような顔をして俺を見た。きっとここで一人にしてしまったら、また徹ちゃんに変なふうに誤解される。俺は溜め息を一つ吐いて観念することにした。
「───急に彼氏と別れるから付き合おうって言われた」
俺がそう言うと三木が急に弾けたように笑い出した。
「すげーツラの皮が厚いオンナ!」
「そう言うなよ」
「だってそうじゃん?最近髙木はウチとのプレゼンで負け続きだし。てか、主に黒田に負けてんだけどね」
「まあ、そうなんだけど」
「だからって黒田に乗り換えるとかすげえな」
「えっと……凄いの?」
徹ちゃんが三木のほうに振り返るとそう言った。
三木はにこりと微笑んだ。
「うん。すげえ嫌い」
あ、そっちなんだ……徹ちゃんは小さく呟いた。
「で、黒田はなんて言ったわけ?」
「本命がいるからって断った」
へー、と三木は何の感情も出さずに言った。そこは突っ込まないんだな。
「それで納得したんだ?」
「するわけねえだろ。だから彼氏がいるのに他の男と寝るような女は彼女にしたくないって言った」
俺がそう言うと徹ちゃんはまた固まってしまった。すまん。
「黒田、自分のこと棚に上げてそんなこと言ったんだ!?」
「俺は知らなかったんだから仕方ねえだろうが」
「彼氏がいるって分かったらやめればよかったじゃん」
「構ってくれなくて寂しいって言われたから……」
「相手の作戦だろ、それ」
三木は確かに俺よりはそういうのに慣れている。言われてみればそうなんだと気づくんだけど。
「それで平手打ちされたってわけ」
俺はヤケクソでそう言った。
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