番外編 黒田編

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「あのさ、黒田。そういうのはやっぱり言っちゃいけないと思うよ。相手は女の子なんだから」 「「は?」」  徹ちゃんがおかしなことを言い出した。俺と三木は変な声を出した。 「女の子は綿菓子みたいなものだから、大切にしなきゃいけないって。あの、母さんが……」  あまりに俺と三木が徹ちゃんを凝視するものだから、徹ちゃんの声がだんだん小さくなる。おいおい俺の話聞いてたよな?そんなふうに言われるとさすがに俺だって面白くない。 「俺が悪いって言いてえの?」 「そうは言ってないけど。なんかそういう言い方って黒田らしくないっていうか」 「俺らしいって何!?」 「……ごめん」  徹ちゃんは下を向いて小さな声で謝った。 「徹は悪くないよ。綿菓子ってのは言い過ぎだと思うけどね。そうだな、砂糖菓子っていう感じ?」  三木は徹ちゃんの頭を撫でながらそう言った。 「甘くて中毒性があって。中には身体に良くないものもある」  三木はそう言って徹ちゃんの顔を覗き込んだ。 「ごめん、黒田」  徹ちゃんはやっぱり顔を上げないでそう言った。  なんだよ、そんなにすぐに謝るなら言わなきゃいいじゃん。俺は面白くなくてソファにゴロンと横になった。  渇いている。  また妙な感情がざわめき出す。さっきまでそんなこと感じなかったのに。  横目でチラリと見れば、シュンとしょげた徹ちゃんの顔があった。  そんな顔させたいわけじゃないのに。 「でもさ、乗り換えたくなるのは分かる気もするね。今、その髙木って奴ヤバいらしいから」  三木が俺に言った。 「ヤバい?」 「そう。髙木ってさ、確かに営業一課でめちゃめちゃデキる奴って評判だっただろ?社長の親戚ってだけじゃなくて、仕事もすげえデキるって」 「ああ。もの凄い切れ者ってのは聞いたことある。アイツだけはプレゼンかち合いたくないって」 「ところがさ、どうやら部下とか取引業者にパワハラ凄かったらしいんだよね。それを告発されたらしくて労基とか中小企業庁とかが話を聞きに来たみたい。それで今度社内一斉監査をやるって」 「マジで!?」  俺は慌てて起き上がった。 「さすがにお上まで出張ってきたら、ちょっと出世は今後難しいんじゃないかなあ。丸菱の経営陣はそういうの嫌いじゃん?クリーンな感じを好むっていうか」  まあ、綺麗事では済まない世界ではあるけれど、普通に頑張ってるだけならそんなにお上もわざわざ会社に来たりしないだろう。しかも二箇所から。 「そういうのもあるんじゃないの?だから黒田に乗り換えたかった」  確かに言われてみればそうかもしれないが、恋人同士ならそういう時こそ一緒に乗り越えるべきなんじゃねえの? 「まあ、そんな男だからね。どうやらモラハラも結構あったみたいよ。ウチの情報通の話によると」  三木の課には情報通とされるインフルエンサーが二人いる。両方相当な美人だが、かなりおっかない情報を持ってたりする。 「……そうか」  俺はそう答えるしかなかった。あの女の言ってることは半分は本音だったのかもしれない。あの手の女は今が売り時だろう。きっと歳をとってくれば価値の下がるタイプの女だ。自分の価値を一番理解してるのかもしれない。
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