番外編 黒田編

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 ふと三木のスマホが鳴った。どうやら会社かららしい。三木は舌打ちをしながら自分の部屋に入って行った。 「悪かったな。イライラして八つ当たりした」  俺がそう言うと、徹ちゃんはパッと顔を上げて俺を見た。 「ううん、俺のほうこそごめん。黒田らしくないなんて勝手なこと言って。でも黒田は他人に嫌なことを言ったりする感じじゃないから」 「買い被るなよ。俺だって嫌なこと言ったりもするさ」 「そんなことないよっ!」  徹ちゃんは急に大きな声を出すと、俺の腕にしがみついてきた。 「黒田はいつも俺を助けてくれた。今だってそうだろ?黒田はいつだって頼りになる」  徹ちゃんは潤んだ瞳で俺を見上げた。俺を心底信頼してるって顔。  ───ダメだ!渇いて仕方ない!  俺は徹ちゃんの肩を掴むとソファに押し倒した。動けないように徹ちゃんに馬乗りになる。 「……くろ、だ?」  徹ちゃんは何が起きたのか分からないようで、驚いたような顔で俺を見る。俺は徹ちゃんの肩を強く押さえつけたまま見下ろした。  徹ちゃんの目の奥が揺らぐように見えた。俺はそのまま徹ちゃんの唇に噛みついた。何度も何度も唇を重ねた。重ねる度に深くなっていく。貪るように唇を奪い続けた。 「くろだ、くるし……」  徹ちゃんが息をしようと身体を捩るが、俺はそれを許さない。もっと深く、もっと深く───舌先で唇をこじ開ける。徹ちゃんは噛んでしまうのを恐れたのか、僅かに口を開いた。俺が顔を見ると徹ちゃんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。けれどそれでも俺を見つめる瞳は俺を信じていた。  満たされる。  激しい渇きが一気に解消されていく。このまま抱きしめて深く口付けたい。そう思った。  スパーーーーーーーンッ!!!!!  俺の後頭部から不思議な音がした。 「なにやってんだ!?このケダモノがああああああ!!!」  デカい声と共に俺はどこぞの虫のようにスリッパでバシバシバシと叩けれ続けることとなった。  しまった……三木の存在を忘れてたわ。
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