番外編 黒田編

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**  三木にスリッパで散々叩かれた後、俺は蹴られてソファから転げ落ちた。 「このまま追い出してもいいんだけど、何ならベランダから飛び降りる?」  もの凄くいい笑顔で言われた。めちゃくちゃ怒ってるわ。  徹ちゃんはそのまま走ってキッチンへ行ってしまった。もしかして俺、相当ヤバくない!?  三木は手にまだ繋がっているスマホを持っていた。『課長!』って声がする。 「電話。繋がってるみてえだけど?」  俺がそう言うと三木は表情ひとつ変えずに電話に出た。 「ごめん。もう好きにやっていいよ。どんなふうになっても僕が責任取るから」  そう三木が答えると電話の向こうから絶叫が聞こえたが、三木はそのまま通話を切った。 「さて。こっちはどう責任を取ってもらおうかな?」  三木の唇は弧を描く。目は全然笑ってないけどな。  あ。これ俺死んだな。 「黒田〜!」  ちょうどキッチンから俺を呼ぶ声がした。俺は慌てて立ち上がってキッチンに急いだ。ホント背中向けたら切られそうな勢いだった。 「座って」  徹ちゃんにそう言われて、よく分からないままダイニングテーブルの席に着く。  すると俺の前にマグカップが置かれた。甘いいい香りがした。 「焼きマシュマロ入りココア。どうぞ」  徹ちゃんはそう言うと俺の前の席に座った。俺はよく分からないまま、そのココアに口を付ける。そのココアは甘ったるくなくて、けれど甘味自体が締まった感じの程よい甘さで、なによりマシュマロの香ばしい香りと蕩け具合が絶妙だった。 「美味い」 「よかった」  徹ちゃんはあんなことがあったのに、変わらずに俺を見て微笑んだ。 「なんでココア……?」 「いや、あの、黒田はやっぱり好きだったんだろ?」  ん?なんのことだ!? 「結果あんなこと言っちゃったけど、本当は彼女のこと好きだったんだろ?」 「はい!?」 「ちょっとやっぱり黒田、今日変だったもん。その……失恋して辛かったんだろ?」  えっと……。どうしてそうなった!?  もしかして俺が彼女を忘れられなくて、徹ちゃんにあんなふうなキスをしたと思ってる!?  俺が何か言おうと口をパクパクさせていると、三木がキッチンにやって来て徹ちゃんの肩に手を置いた。 「さすが徹だね。黒田の傷心ぶりが分かるなんて」  いや、オマエめっちゃ笑い堪えてるだろ!? 「失恋の時はマシュマロ入りのココアがいいんだって」 「……それも徹ちゃんのお母さんが言ってた?」 「ううん。黒田のお母さん」  どんなシュチュエーションで俺の母さんとそういう話になるんだよ!?
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