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向かいに座る徹ちゃんの俺を心配する顔を見ていたら、なんだかどうでもいい気になってきた。
満たされる。
そんな感覚がした。
俺はきっと自分が大切に思っている人とこんな時間が持ちたかったのかもしれない。そして俺を、俺だけを信頼してくれる人に見詰めて欲しかった。
「───徹ちゃん、ありがとう」
俺がそう言うと徹ちゃんは嬉しそうにはにかんだ。その顔を見ただけで、俺は満たされていた。
「ねえ、徹。僕もそのココア飲みたい」
「三木は失恋してないじゃん?」
「それでも同じものが飲みたいの!」
徹ちゃんは、もう仕方ないなあと言うと作りに行ってしまった。
三木が俺の前に座る。
「なにが失恋だよ。徹に惚れてることを自覚しただけじゃん」
「まあな」
絶対に手に入れたい。そう改めて自覚したことは確かだった。
「もっと早く分かってたら、その女応援したのに」
「いくら三木でもそれは無理だ」
ずっと渇いていて苦しかったんだから。そう、欲を発散するどころか最近何かどんより重い気持ちになっていたことは事実だった。
「知ってるよ。だいたい彼氏持ちの女と黒田がどうこう出来るわけないし」
三木はそう呆れたように言った。
「ただ僕としては徹を譲る気は一ミリもないけどね」
俺はそれには何も答えなかった。確かにライバルとしての三木はかなり手強い。
「っていうか、オマエ凄いな。こんなに近くに居たら俺は自分を抑えられる自信がない」
……って実際押し倒してしまったわけだけど。
「僕はカラダだけ欲しいわけじゃないからね。僕無しで生きられないようにしたいだけ」
相変わらずドン引き発言する奴だな。
「ま、俺も魔王にみすみす渡すわけにもいかないしな」
「僕が魔王ならそっちはケダモノじゃん?」
「うるさい」
「なになに?なんの話?」
徹ちゃんは三木の前にココアを置いた。
「徹が可愛いって話!」
そう言って徹ちゃんの腹に手を回して、強引に自分の膝に乗せた。徹ちゃんは子どもじゃないのにとか何とか喚いていた。
「徹ちゃん」
俺がそう呼ぶと徹ちゃんは俺の方を向いた。俺は手を伸ばして徹ちゃんの目尻を擦った。
「怖い思いをさせた。悪い」
「だ、大丈夫。そんな怖くなかった、から」
「涙、残ってる」
「これは……その、息が出来なかっただけで。あの、黒田は怖くなかったよ」
「そっか」
だったら脈がないわけでもないよな。
「二度目があると思ってるのかな?ウチ出禁にしようか?」
まずは魔王を倒さないといけないらしい。
Fin
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