番外編 初めてのおつかい

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**  三十分ほどして内線が鳴った。深田があり得ない速さで出る。 「すぐ行きます!絶対待っててくれるように言って!」  深田が受話器を置くとすぐに駆け出した。浅井はもうすでに向かっている。エレベーターのボタンを押してるはずだ。こういう時何故か二人の息はぴったりになる。  魔女二人はさっきから鏡を見て、髪型とか化粧のチェックに余念がない。二木さんは内線が鳴ってからすでに手が止まっていた。  かくいう僕もさっきから仕事のページを閉じていた。全くどいつもこいつもである。  暫くすると深田の声が聞こえてきた。どうやら案内してきたらしい。僕たちに緊張が走った。 「え、本当に入っていいの? 三木には受付に渡したらすぐ帰れって言われてるんだけど」 「ああ、大丈夫っすよ。全然気にしないで下さい」  そう声がした。  そして全員が一斉に入り口の方を見た。  そこにはなんというか普通の学生みたいな男子が立っていた。 「あの……こんにちは。水沢徹っていいます」  なんというたどたどしい挨拶。そしてぺこりと頭を下げた。 「どうぞ。入ってくださいよお」  浅井は僕の隣の空いている席の椅子を勧めた。 「さ、座って座って」  背中を押されながら案内されて、強引に座らされる。 「コーヒーとお茶どっちがいいっすか?」 「じゃあ……お茶で」  そう言って小さく頭を下げた。  みんなトオルさんに釘付けだった。  そっか……トオルさんって男だったんだ。最近じゃ“透“って名前の女の子もいたりするから、もしかしたら女子かなって思ったんだけど。  トオルさんは思ったより普通だった、身長も少し痩せ型の体型も。課長と黒田課長の知り合いだっていうから、もっとキラキラした感じを想像してた。背も高くて、細マッチョなイケメン。友達ならそんな感じかと思っていた。トオルさんは確かに多少は可愛らしいというか童顔な感じもするけど、割とその辺にいそうな感じだった。  白いTシャツの上に紺色のシャツを羽織って、丈が少し短めの黒のアンクルパンツ。縦長の黒のボディバッグ。学生っぽい格好だ。  そしてなんとなく居心地が悪そうに座っている。なんだか面接に来た学生バイトみたいだった。 「はじめまして〜!三木課長にはいつもお世話になってまぁす!」  そう言っていきなり魔女一号がトオルさんに名刺を渡した。魔女一号はCMみたいなツヤツヤの栗毛色のロングの巻き髪で、肌は絶対焼かない派の色白、カラコン必須、西洋人形みたいな感じだ。 「あ、ありがとうございます。えっと……」 「梨々香って呼んで下さいねー」 「あ、はい。りりか、さん」 「如月乃亜(きさらぎ のあ)です」  間髪入れずに魔女二号が名刺を渡す。魔女二号は黒髪のストレートロングで、切長の瞳、真っ赤な唇。海外で活躍する日本人モデルみたいだった。 「ノアって呼んで下さい」 「あ、はい。のあ、さん」  トオルさんは魔女二人の攻撃を受けて戸惑ってるようだった。 「よかったらお名刺くださぁい」  一号がねだった。
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