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「──あの」
浅井を止めたのは二木さんだった。
「徹さんに質問があるんですけど!」
二木が珍しくはっきり言い切った。みんなビックリして二木に釘付けだった。
「と、徹さんて料理上手じゃないですか!それで聞きたいことがあるっていうか」
「料理上手ってわけじゃないけど、答えられることなら」
そう言って徹さんはにこりと微笑んだ。あ、可愛い。ん??
「あ、あの、きんぴらのことなんですけど。私もきんぴらたまに作るんですけど、どうしても上手くできなくて。なんていうかベシャってなっちゃうっていうか」
「きんぴら?」
徹さんの問いに二木は頷いた。
「課長も黒田課長も徹さんのきんぴらは美味しいって言ってたから」
黒田課長も言ってたんだ……浅井が呟く。いや、今は黙って!
「うーん、どんなふうに作ってるか聞いてもいい?」
徹さんは優しくそう言った。
「別に普通っていうか。ごぼうとにんじんを油で炒めて、酒をちょっと入れて、砂糖と味醂と醤油を混ぜたのを入れて、ちょっと煮るみたいな感じですけど。ネットで見た通りのレシピっていうか」
「うん。美味しそうだね」
「でも課長が徹さんのきんぴらはシャキっとしてて美味しいって」
「俺のは婆ちゃんから教えて貰ったやつだから。少し違うかな」
「それって教えて貰えますか!?」
二木は身を乗り出して訴える。こんな必死な二木は初めて見た。
「俺のは……」
「待って下さい、メモ取ります」
二木はメモの準備をすると、真剣な顔で徹さんに向き合った。
「ごぼうとにんじんを細切りにして……あ、ごぼうはささがきでもいいよ。火が通りにくいから。それをごま油でじっくり炒めるんだ。途中で鷹の爪を少し入れてね。で、火が通ったかなって時に砂糖を入れる。それからまた炒める。で、ちゃんと火が通ったら醤油を回し入れる。全体に絡むようにね。それから味が馴染むまで休ませる」
「それだけですか?」
「うん。けど炒める時間が結構長いから、疲れちゃうかも。最初は火が通りやすいように細めに切るといいよ」
二木はメモに細かく書き込んでいく。
「油はなに使ってるの?」
「最初はサラダ油ですかね。最後にごま油を風味付けに入れる感じです」
「できれば油は最初からごま油を使って欲しいな。ちょっともったいない気もするかもしれないけど。でもせっかく作るんだから美味しく食べて欲しいでしょ?」
「はい」
ん? 待て待て待て。“美味しく食べて欲しい“っておかしくないか?
「だって大切な人のために作るんでしょ?」
徹さんはそう言ってにこりと微笑んだ。それを聞いた二木の顔が真っ赤になった。
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