番外編 初めてのおつかい

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 ふと足元に何かが落ちてるのに気がついた。スケッチブック? 拾い上げる時に中がチラリと見えた。 「か……可愛い!!」  つい声を出してしまった。徹さんが顔を上げた。もしかして徹さんが描いた? 「すいません、これって徹さんのですか?」 「あ、落としてた?」 「はい。あの、中見えちゃって。猫、飼ってるんですか?」 「うん。三木の家の猫」 「サイベリアンですか? あの、猫大好きなんで」 「確かそんな種類だったかな? 綺麗な猫だよね」 「あの! 見せて貰っていいですか?」  僕が勇気を出してそう言うと、徹さんは頷いてくれた。僕はワクワクしてスケッチブックを捲る。わー、可愛い。っていうか美猫! 徹さんの絵も上手いなあ。線画だけってもったいない。色、つけてあげたいな。  徹さんが一生懸命に書き込んでいるのを浅井は覗き込んでいる。『黒田課長のレシピとかないんすか?』とか聞いてるし。それを聞いてどうするんだ?  さっきから深田が大人しい。いつもなら率先して喋るくらいなのに。チラリと見れば、なんか難しい顔をして徹さんを見ていた。  僕は徹さんがなんだか気に入っていた。笑った顔とかすごく素敵だった。課長や黒田課長に較べて普通なんて思ったけど、全然別の方向で好印象だった。なんかいい人だ。  僕はそっとスケッチブックをスキャンした。徹さんの描いた猫を取り込むと、パソコンでそれを開いた。 「黒田は食欲がないってことはないけど、眠れないことはあるみたいだよ。黒田のもいる?」  とか言ってるし。浅井は嬉しそうに頷いてるけど。  俺は隣で猫の彩色を始めた。きっとこんな感じかな?  暫くするとどうやら徹さんは書き終えたようだった。二木はそれを真顔で穴の開くほどじっと見ている。浅井は単純に喜んで、深田に自慢していた。 「あの、徹さん」  僕は思い切って声をかけた。 「スケッチブックの猫、色付けてみたんですけど」  そう言うと徹さんはどれどれとパソコンを覗き込んだ。 「わー。綺麗! ミーシャとそっくりだよ!」  ミーシャ? 猫の名前かな?  徹さんは上手だねってニコニコしながら何度も褒めてくれた。なんかすごくくすぐったい気持ちだった。  僕は嬉しくなって、もっと喜ばせてあげたいなって気持ちになった。  それで自分たちが作ってるサイトに猫を合成する。徹さんの絵のせいかすごくサイトに馴染んだ。 「徹さん、これって僕らの作ってるサイトなんですけど、徹さんの猫を入れてみました!」 僕がちょっと自慢げに言うと、徹さんはパソコンを覗き込んだ。  わあ……と短く声を上げた。 「凄い!凄いよ! ミーシャがそこにいるみたい! この時間で作ったの?凄いなあ」  徹さんは振り向いて僕を褒めてくれるのは嬉しいんだけど、なんか距離近いんですけど。けど、つい嬉しくて、僕はまた調子に乗った。 「少しだったら動かせますよ」  そう言って少しだけ動きをつけた。それを見て徹さんは感嘆の声を上げた。 「凄い! ミーシャが動いてる!」  僕は自慢げにへへと笑った。徹さんは本当に嬉しそうに喜んでくれるんだ。ついそれが見たくて。
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