424人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと足元に何かが落ちてるのに気がついた。スケッチブック? 拾い上げる時に中がチラリと見えた。
「か……可愛い!!」
つい声を出してしまった。徹さんが顔を上げた。もしかして徹さんが描いた?
「すいません、これって徹さんのですか?」
「あ、落としてた?」
「はい。あの、中見えちゃって。猫、飼ってるんですか?」
「うん。三木の家の猫」
「サイベリアンですか? あの、猫大好きなんで」
「確かそんな種類だったかな? 綺麗な猫だよね」
「あの! 見せて貰っていいですか?」
僕が勇気を出してそう言うと、徹さんは頷いてくれた。僕はワクワクしてスケッチブックを捲る。わー、可愛い。っていうか美猫! 徹さんの絵も上手いなあ。線画だけってもったいない。色、つけてあげたいな。
徹さんが一生懸命に書き込んでいるのを浅井は覗き込んでいる。『黒田課長のレシピとかないんすか?』とか聞いてるし。それを聞いてどうするんだ?
さっきから深田が大人しい。いつもなら率先して喋るくらいなのに。チラリと見れば、なんか難しい顔をして徹さんを見ていた。
僕は徹さんがなんだか気に入っていた。笑った顔とかすごく素敵だった。課長や黒田課長に較べて普通なんて思ったけど、全然別の方向で好印象だった。なんかいい人だ。
僕はそっとスケッチブックをスキャンした。徹さんの描いた猫を取り込むと、パソコンでそれを開いた。
「黒田は食欲がないってことはないけど、眠れないことはあるみたいだよ。黒田のもいる?」
とか言ってるし。浅井は嬉しそうに頷いてるけど。
俺は隣で猫の彩色を始めた。きっとこんな感じかな?
暫くするとどうやら徹さんは書き終えたようだった。二木はそれを真顔で穴の開くほどじっと見ている。浅井は単純に喜んで、深田に自慢していた。
「あの、徹さん」
僕は思い切って声をかけた。
「スケッチブックの猫、色付けてみたんですけど」
そう言うと徹さんはどれどれとパソコンを覗き込んだ。
「わー。綺麗! ミーシャとそっくりだよ!」
ミーシャ? 猫の名前かな?
徹さんは上手だねってニコニコしながら何度も褒めてくれた。なんかすごくくすぐったい気持ちだった。
僕は嬉しくなって、もっと喜ばせてあげたいなって気持ちになった。
それで自分たちが作ってるサイトに猫を合成する。徹さんの絵のせいかすごくサイトに馴染んだ。
「徹さん、これって僕らの作ってるサイトなんですけど、徹さんの猫を入れてみました!」
僕がちょっと自慢げに言うと、徹さんはパソコンを覗き込んだ。
わあ……と短く声を上げた。
「凄い!凄いよ! ミーシャがそこにいるみたい! この時間で作ったの?凄いなあ」
徹さんは振り向いて僕を褒めてくれるのは嬉しいんだけど、なんか距離近いんですけど。けど、つい嬉しくて、僕はまた調子に乗った。
「少しだったら動かせますよ」
そう言って少しだけ動きをつけた。それを見て徹さんは感嘆の声を上げた。
「凄い! ミーシャが動いてる!」
僕は自慢げにへへと笑った。徹さんは本当に嬉しそうに喜んでくれるんだ。ついそれが見たくて。
最初のコメントを投稿しよう!