番外編 初めてのおつかい

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**  課長は見たこともないような怖い顔をしながら二人のところに真っ直ぐやってきた。そして無言で二人をベリッと引き剥がし、二人の間に入った。 「ねえ、徹。書類渡したらすぐに帰れって言ったよね?」 「ご、ごめん。仕事の邪魔しちゃった。すまない」  徹さんはそう言うと机の上にあったスケッチブックとメモ帳を慌ててボディバッグに詰めこんだ。そしてすぐに部屋から出て行こうとしたんだ。僕らは課長の剣幕に押されて何も言えないでいた。 「待って!」  そう言って徹さんの腕を掴んだのは深田だった。 「徹さん、待って下さい。まだ話は終わってないんで」 「いや、あの、仕事の邪魔しちゃうから。ごめんね」 「邪魔なんかじゃないです。課長、徹さんをここに連れてきたのは俺です。徹さんが勝手に入ってきたわけじゃありません」  深田は何故か徹さんを庇うように間に割って入った。 「どうして駄目なのかは知らないですけど、お叱りなら後で聞きますから。なんなら反省文でも何でも書きますよ。徹さん、さっきの話どうですか?」 「いや、あの、どうですかって……俺のせいで怒られるのは申し訳ないし、今日は帰るよ」 「じゃあ連絡先教えて下さい! また後日時間を取って話しましょう!」  まあ、そういうことなら……と徹さんはスマホを取り出した。 「ダメッ!!」  課長はビックリするくらい大きな声を出した。そして徹さんがそれに驚いている間に、自分のほうに無理やり徹さんを引き寄せた。 「──帰らないで」  そう言って徹さんを後ろから抱きしめた。  は? いやいやいや、課長! 何してんの!?  あああああり得ないでしょ!?  僕はあわあわして、二木は真っ赤になってるし、魔女たちも目を丸くしていた。  三木ーーー!!  と廊下から大きな声がする。すぐに黒田課長がやってきた。 「うおっ! なんで書類がぶちまけられてんの……って徹ちゃん!?」 「あ、黒田」  徹さんが黒田課長に気が付いてそう言うと、黒田課長は珍しく眉間に皺を寄せた。 「三木……何してんだ?」 「徹が僕の話を聞いてくれない」 「ごめん。もう帰るって」 「え!? 徹ちゃんもう帰るのか?」 「仕事の邪魔しちゃったから。三木、悪かった」 「だから帰らないで」 「お前らなんの話してんの!?」  黒田課長は呆れたように二人を見た。 「どうでもいいけど、三木、部長が呼んでたぞ? シカトして出て行ったろ?」 「徹に連絡しても返信なかったから心配だった。部長には別に用事ないし」 「おまえになくても向こうにはあるんだよ」 「ノルマも目標も達成してるのに何の用事があるんだよ?」 「知るか。さっさと行ってこい!」  課長はムスッとしたまま徹さんを離した。 「徹、僕がなんで怒ってるか分かる?」 「仕事の邪魔したからだろ?」 「違うよ。仕事なんてどうでもいい。やりたきゃやるだろうし、やりたくなきゃやらないだろうし。どうして僕が怒ってるのか戻ってくるまで考えてて」  そして黒田課長の元に行くと、自分が戻って来るまで徹さんを絶対帰さないようにって念を押して出て行った。  黒田課長は課長の背中を眺めながら、めんどくせえ奴だなあと呟いた。
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