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「黒田課長! ちょっと見て下さい!」
空気を読まずに浅井がそう言った。
「徹さんの猫が動くんです!」
黒田課長は浅井に呼ばれて渋々僕のパソコンを覗いた。僕は仕方なく、それを動かしてみせた。
「おー。徹ちゃんの描いた絵が動いてる! あの猫だろ?」
黒田課長は急に表情に変えて、嬉しそうに徹さんを見た。
「ミーシャな。いい加減覚えろ」
徹さんは少し表情が和らいだ。けど課長に怒られて少し落ち込んでいるように見えた。
そんな徹さんに黒田課長は困ったように微笑んで、頭を撫でた。
「そんな落ち込んだ顔すんな」
「だって三木の仕事の邪魔しちゃって。申し訳なかったなって」
「仕事の邪魔して怒ったわけじゃないって言ってただろ?」
「それ以外で怒る理由なんてないだろ?」
黒田課長はそっと溜め息をついた。
「まあ、普通はそうなんだろうけど。徹ちゃんもいい加減三木に慣れろ」
徹さんは首を傾げた。まあ……確かにそれ以外考えられないけど。
「──三木は徹ちゃんを見せたくなかったの。だから帰れって言ったわけ」
「えっと……ごめん。それならやっぱりかえ」
「そうじゃねえからな。誤解すんな」
黒田課長はめんどくせえなとまた呟くと、頭を掻いた。
「アイツは大事なモンは他人には見せたくねえんだよ。知ってるだろ?」
黒田課長がそう言うと、徹さんより魔女たちがすぐに反応した。
「モラハラな俺様だと思ったらサイコだった!」
「嫉妬深すぎ」
おいおいおい。いや……確かにそうだけど。
当の本人は不思議そうに首を傾げている。
「うそ……気が付いてないとか!」
「二木ちゃんの時はあんなに勘がよかったのに!」
徹さんはたぶん自分のことになると超絶評価が低いんだと思う。僕もそうだから。
「俺は答えを教えたからな」
「あ、う……ん。よくわかんないけど」
「いや、そろそろ理解してくれ」
「黒田は分かるの?」
「いや、分からねえ」
「黒田も分かんないんじゃん」
徹さんはそう言うと可笑しそうに笑った。
「やっと笑ったな」
黒田課長はそう言うと、徹さんの頬にチュッと音を立ててキスをした。
は!?
これには魔女たちも小さく声を上げた。
浅井に至っては息してない。
なのに徹さんは何もなかったかのようにしている。
どういうこと!?
「おおおおおかしくないですか!?」
変な声を上げたのは浅井だった。
「いいいいいまの! 今したヤツ!」
「え? 何が?」
徹さんは不思議そうに浅井を見た。
「ほっぺにチュって!」
浅井、落ち着け。なんか子どもみたいな喋りになってるぞ。
ああ、と徹さんは言った。
「外国だとよくやるでしょ?」
「は?」
「海外のスポーツの試合とかでもよくやってるだろ? な?」
黒田課長は悪びれずに答えた。
浅井はそうかと首を捻りながらも、うんうんと頷いている。
「いやいやここ日本だしね」
「アサイー騙されてるって」
魔女たちは呆れてように呟いた。
それは黒田課長には聞こえたようで、魔女たちを一瞥すると不敵に微笑んだ。
「うわっ。確信犯だった」
「課長のサイコといい勝負」
きっとそれも黒田課長には聞こえていたと思うんだけど、それも気にせずに黒田課長は徹さんの肩に手を回して自分のほうに引き寄せた。
そして何くわぬ顔で画面を見ながら徹さんの絵をやたら褒めていた。黒田課長もやっぱり食えない人だと思う。
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