番外編 初めてのおつかい

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「……ただいま」  課長は機嫌が悪そうな顔をして戻ってきた。自分でぶん投げた書類を拾っている。徹さんは手伝おうと動きかけたけど、黒田課長はガッチリ肩を掴んで離さなかった。 「……徹を帰さないでって頼んだけど、近すぎじゃない?」 「俺は帰さないでって頼まれただけだからな。まあ役得」  黒田課長はシレッと言った。課長はそれを聞いて眉間に皺を寄せた。 「で、部長はなんだって?」 「さあ。よく出来たとか何とか言ってたけど。隣で部長代理がたまたまよかっただけじゃないのかって言ってた」 「あー。で、なんて答えた?」 「そうですねって言った」  今度は黒田課長が顔を顰めた。 「おまえ、そんなこと言われて黙って帰ってきたのかよ?」 「僕が何にも考えてなかったらたまたまでしょうけど、考えてやってますので心配には及びませんって言っといた」  黒田課長は声をあげて笑った。 「そりゃ見ものだったな!」 「そんなくだらないことで呼ばないで欲しいよ。こっちは一大事なんだから」  課長は黒田課長の手を除けると、徹さんの両肩を掴んで自分のほうに向かせた。 「で? 徹は僕がなんで怒ったか分かった?」 「……大事なものを見せたくなかった?」  徹さんは黒田課長に教えて貰った通りに答えた。課長はチラリと黒田課長を見た。きっと黒田課長が教えたと気が付いたんだと思う。 「じゃあ、僕の大事なものって?」  予想外の質問に徹さんは、え?と声を上げたまま考え込んでしまった。 「──三木の大事なもの?」 「そう」 「えっと……」 「他人から聞いた答えをそのまま言っても仕方ないでしょ?」  えっと……徹さんは何か言いかける。 「……ミーシャ?」 「「は!?」」  魔女たちは大爆笑して、二木さんも笑いを堪えている。浅井はキョトンとしていたが、深田は目を丸くしていた。僕も声を上げそうになって慌てて堪える。 「何でそこで猫が出てくんだよ!?」 「だから猫じゃなくてミーシャ! 三木が可愛がってるんだから、いい加減名前覚えろ」  徹さんと黒田課長は言い争いをしてたけど、課長は固まっていた。 「今のは課長が悪いわよね」 「そうそう。質問が意地悪だもん」 「まあ“俺“って言わせたかったんでしょうけど」 「言わないよねー、普通」 「そこ! 全部聞こえてるから!」  課長はヤケクソ気味でそう言うと、徹さんを真正面から抱きしめた。 「──徹が大事っていつも言ってるじゃん」 「三木? えっと……苦しいよ?」 「ちゃんと答えて」 「間違えちゃって、ご……ごめんね?」  課長はそのまま頭を徹さんの肩口に乗せた。  徹さんは課長の頭を撫でる。 「……いい加減にしろ。ここ会社だからな」  いや、そう言ったアナタはさっきほっぺにチュウとかしてましたけどね!?
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