番外編 初めてのおつかい

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 すると不自然な咳払いが聞こえた。深田だった。 「課長。先程の話の続きをしたいのですが」 「だからダメ」 「ちゃんと説明させてください!」 「三木。いい加減にしろ。徹ちゃん帰すぞ」  黒田課長に言われて、課長は渋々徹さんから離れた。 「勅使河原のパソコン見てください」  課長はもの凄く不機嫌そうに僕のパソコンを見た。  っていうか課長はそんなに僕たちに怒ることはない。不機嫌な顔もそうそう見せないし、八つ当たりなんて絶対にしない。そんな美人の不機嫌な顔だぞ? 僕は内心ドキドキしながら操作していた。 「──どうですか?」  ひとしきり見せると深田はそう言った。 「どうって?」 「すごくよくないですか!?」 「うん。いいんじゃない? こういうコンシェルジュ的な動くものがあってもいいかもね」 「じゃあこれは採用ってことで」 「うん。発想はいいね。じゃあキャラクター設定に必要なちゃんとしたデザイナーとかピックアップしてきて」  課長はすげなく深田に言った。 「──このキャラの何が不満ですか?」  深田は課長に食らいついた。 「これは徹が書いたのでしょ? プロにデザインして貰えばいいじゃない? 予算はあるんだし」 「それじゃ何が不満なのか答えになってないんですけど」 「プロに頼んだ方がもっといいのができるでしょ?」 「そんな古い発想はどうなんですかね? 俺たちは今のがいいって話してるんですよ? それなのに改善点も出さずに、いきなり他のにしろっておかしいでしょ」 「じゃあこんな感じにしてくれって頼めばいいじゃない」 「課長は徹さんを馬鹿にしてるんですか?」  深田の言い方はあまりにも挑戦的だった。聞いててハラハラする。 「──どういう意味?」 「徹さんの描いた絵をパクれって言ってるようなもんですよ? あり得ないですね。本気で 徹さんを思ってたらそんなこと言えないはずですよ」  確かに深田の言ってることに間違いはなかった。けれどいつもの深田と違っていて、何だか課長に挑むみたいな言い方だった。 「徹はプロじゃないし」 「誰だって最初はプロじゃないですよ」 「こっちのオーダー通りに出来るかどうか分からないし」 「それはこっちの対応でどうにでもなるでしょう? 打ち合わせ次第で何とでもなりますよ。それこそきめ細かに対応すればいい」  既に課長と深田はバチバチで喧嘩してるみたいになっていた。徹さんは心配して何か言おうとしたのを、黒田課長に止められていた。 「──とにかく徹はダメ」 「公私混同ですね。話にならない」  深田がそう言うと課長は凄い顔をして深田を睨んだ。深田はそれに臆することなく課長と対峙している。 「──で、徹さんはどうなんですか?」  深田は急に徹さんに振った。 「どうって……三木が反対してるなら止めた方がいいと思う、よ」 「課長は関係ないですよ。徹さんが描いた絵が見た人を楽しませるんですよ? もしかしたらそれを見て癒される人もいるかもしれない。それでも引き受けてもらえませんか?」 「それは……」  徹さんは俯いてしまった。今の深田の言い方はちょっと狡いと思う。徹さんがいい人なのを逆手に取ったようなやり方だ。  あ。だから黙って観察してたのか!?   浅井も深田も営業の成績もよく、営業部ではちょっとした有名人だ。浅井は相手の懐に入るのが上手で、深田は相手の弱みを掴むのが上手いと聞いたことがある。案の定、徹さんは悩み始めてしまった。
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