425人が本棚に入れています
本棚に追加
すると不自然な咳払いが聞こえた。深田だった。
「課長。先程の話の続きをしたいのですが」
「だからダメ」
「ちゃんと説明させてください!」
「三木。いい加減にしろ。徹ちゃん帰すぞ」
黒田課長に言われて、課長は渋々徹さんから離れた。
「勅使河原のパソコン見てください」
課長はもの凄く不機嫌そうに僕のパソコンを見た。
っていうか課長はそんなに僕たちに怒ることはない。不機嫌な顔もそうそう見せないし、八つ当たりなんて絶対にしない。そんな美人の不機嫌な顔だぞ? 僕は内心ドキドキしながら操作していた。
「──どうですか?」
ひとしきり見せると深田はそう言った。
「どうって?」
「すごくよくないですか!?」
「うん。いいんじゃない? こういうコンシェルジュ的な動くものがあってもいいかもね」
「じゃあこれは採用ってことで」
「うん。発想はいいね。じゃあキャラクター設定に必要なちゃんとしたデザイナーとかピックアップしてきて」
課長はすげなく深田に言った。
「──このキャラの何が不満ですか?」
深田は課長に食らいついた。
「これは徹が書いたのでしょ? プロにデザインして貰えばいいじゃない? 予算はあるんだし」
「それじゃ何が不満なのか答えになってないんですけど」
「プロに頼んだ方がもっといいのができるでしょ?」
「そんな古い発想はどうなんですかね? 俺たちは今のがいいって話してるんですよ? それなのに改善点も出さずに、いきなり他のにしろっておかしいでしょ」
「じゃあこんな感じにしてくれって頼めばいいじゃない」
「課長は徹さんを馬鹿にしてるんですか?」
深田の言い方はあまりにも挑戦的だった。聞いててハラハラする。
「──どういう意味?」
「徹さんの描いた絵をパクれって言ってるようなもんですよ? あり得ないですね。本気で 徹さんを思ってたらそんなこと言えないはずですよ」
確かに深田の言ってることに間違いはなかった。けれどいつもの深田と違っていて、何だか課長に挑むみたいな言い方だった。
「徹はプロじゃないし」
「誰だって最初はプロじゃないですよ」
「こっちのオーダー通りに出来るかどうか分からないし」
「それはこっちの対応でどうにでもなるでしょう? 打ち合わせ次第で何とでもなりますよ。それこそきめ細かに対応すればいい」
既に課長と深田はバチバチで喧嘩してるみたいになっていた。徹さんは心配して何か言おうとしたのを、黒田課長に止められていた。
「──とにかく徹はダメ」
「公私混同ですね。話にならない」
深田がそう言うと課長は凄い顔をして深田を睨んだ。深田はそれに臆することなく課長と対峙している。
「──で、徹さんはどうなんですか?」
深田は急に徹さんに振った。
「どうって……三木が反対してるなら止めた方がいいと思う、よ」
「課長は関係ないですよ。徹さんが描いた絵が見た人を楽しませるんですよ? もしかしたらそれを見て癒される人もいるかもしれない。それでも引き受けてもらえませんか?」
「それは……」
徹さんは俯いてしまった。今の深田の言い方はちょっと狡いと思う。徹さんがいい人なのを逆手に取ったようなやり方だ。
あ。だから黙って観察してたのか!?
浅井も深田も営業の成績もよく、営業部ではちょっとした有名人だ。浅井は相手の懐に入るのが上手で、深田は相手の弱みを掴むのが上手いと聞いたことがある。案の定、徹さんは悩み始めてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!