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「どうしたのかな? 何か揉めてるように見えたけど?」
突然声がかかった。みんな一斉に声の主を確認する。
…………は?
「あ、お父さん!」
いや。社長だからね。
あり得ない人物の登場にみんな固まっていた。
「ああ、よかった。ここに居たんだね」
社長は徹さんを見つけると嬉しそうに寄ってきた。
「お父さんはどうして?」
「そりゃあ私の会社だからね」
「あっ……すいません」
徹さんはどうやら思い出したみたいで、赤くなって下を向いた。
「何か揉めてたみたいだけど?」
「あ、いえ。揉めてたわけじゃないんですけど」
「うんうん。でも気になったからね、話してみて?」
社長はすごく優しく言ってたけど、絶対にNOと言わせない迫力があった。徹さんは辿々しくではあったけれど、事の顛末を話した。
「どれが徹くんの描いたものだい? 見せてくれるかな?」
僕はハッと気がついて、慌てて画面に向き合った。
「ほう。これはよく出来ているね」
「あ、ありがとうございます」
僕は慌てて答える。
「徹くんの絵もよかったね。すごく合っていたよ」
「ありがとうございます。あの……これを見て喜んでくれる人っているんでしょうか?癒されたりするんでしょうか?」
徹さんの問いに社長はふと考え込んだ。そして徹さんに問いかけた。
「徹くんはこれを見た人に喜んで欲しいと思ってる?」
「はい。そうだったら嬉しいなって思ってます」
ふむ。社長はひと言そう呟いた。
「けれど三木課長は反対なんだね?」
「はい」
課長は答えずに徹さんが返事をした。
そして社長は深田を見た。
「深田くん、だったかな? 最近よく噂は耳にするよ。頑張ってるんだって?」
「あ、いえ、ありがとうございますっ!」
深田はテンパったみたいに返事をした。それはそうだ。まさか社長が顔と名前を覚えててくれるなんて、これほど嬉しいことはないだろう。
「深田くんは徹くんにお願いしたい?」
「はいっ!」
「──でも三木課長が許可しないものは駄目だろうね」
「でもっ!!」
深田はそうは言ったが、社長にはそれ以上は食い下がらなかった。そして悔しそうに下を向いた。
「けれど営業部のホープの意見を蔑ろにするわけにはいかないね。それでどうだろう? このプロジェクトは私の直轄でやるということで」
「「「「はあ!?」」」
たぶんそこに居た全員が突っ込んだ。
「私と徹くんと君……」
社長は僕の肩に手を乗せた。はははははい!?
「て、勅使河原ででです」
「勅使河原くんと……そうだね、専務にも声をかけてみようか? 時間があれば参加してくれるだろう」
いやいやいや。だいぶおかしいけどね。なんでそうなる!?
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