番外編 初めてのおつかい

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「──ちょっと待って。そんなのおかしいでしょ」  ずっと黙っていた三木課長が口を開いた。 「社長の直轄なんて今までなかったと思いますが?」  課長は社長をグッと見据えた。親子なんだろうけど、今はそんな雰囲気でもなかった。 「先日出た会合で、面白い話を聞いてね。最近やたら業績が上がってる会社の話だったんだが、どうやら社長直轄プロジェクトっていうのをやってから業績が上がってるらしいんだ。だからウチも取り入れてみようかって話をしてたばかりなんだよ、取締役会で」  社長がそう言うと、課長はあからさまに舌打ちをした。 「それは分からないでもないですが、何もこの件じゃなくてもいいでしょう?」  黒田課長が助け船を出す。 「いきなり何も決まってないプロジェクトを立ち上げるより、あくまでも試験的にやるという意味では最適だと思うがね。黒田課長はどう思う?」 「どう思うって……」  黒田課長はそう言うと黙ってしまった。  確かに反論するところは何もない。ほとんど決まっていて、けれど上司が難色を示している案件で、かつ社長はお眼鏡にかなったもの。そんなものは探そうったって殆どないだろう。 「──とにかく徹はダメ」 「三木課長。公私混同はいけないな」 「どっちが!」 「私が直接やるんだから、上司への報告はしなくていいだろう。それだけでもだいぶ違うと思うが?」  あ。そう言われればそうだ。課長の上司は部長と部長代理。間違いなく部長代理はあれこれ難癖をつけてくるに違いない。社長はそれを知ってるんだ……。  課長は唇を硬く結んで何も言わなかった。 「──まあ、確かに公私混同かもしれないね。徹くんが可愛いのは仕方ない」  そっちかよ。黒田課長は小さく呟いた。 「徹くん、よろしく頼むよ。そうそう勅使河原くん。ここの課のミーティングはいつかな?」 「あ、月曜日です」 「じゃあ月曜じゃないほうがいいね。じゃあミーティングは火曜日にしよう。どうかな?」 「「はいっ!!」」  僕と徹さんでハモってしまった。ええええ!? なんか凄いことになってしまった! 「じゃあ徹くん、そろそろ行こうか? 佐和子さんが待ってるよ」  社長はそう言うと徹さんの背中に手を回した。 「ちょっと!」 「え? 佐和子ってもしかして母さん!? なんで?」 「なんでって徹くんとランチの約束をしてたんだろう?」 「はい。黒田のお母さんとお昼一緒に食べようって約束してて」 「いや、母さん何しちゃってんの!?」 「聞いてないっ!」 「出掛けに連絡が来たんだよ。で、三木の会社に行くって言ったら、じゃあ一緒に食べようって」 「そういうのちゃんと言って!」 「いや、三木は会議だって言ってたから」 「会議とか関係ないから! メッセージとか送って!」 「そうなの……? ごめん」  いや、ランチの約束とか会議中に報告するものではないような……。 「で、なんで一緒に行く感じになってんの?」 「専務と私も一緒に行くよ」 「は!? 社長は昼から会頭と打ち合わせとか言ってませんでしたっけ!? それで会議も早く終わったんだよね!?」 「営業部長と部長代理に任せた」 「「は!?」」  社長はそそくさと徹さんを連れて出て行った。  もちろん課長も黒田課長も追いかけて行ったのは言うまでもない。
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