番外編 初めてのおつかい

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**  僕たちは一斉に息を吐いた。  僕自身突然の出来事にドッと疲れが出た。  しかし魔女たちはすぐに復活して、掴んでるスマホにあり得ない速さでフリック入力している。そういえばSNSにこの会社の『裏垢女子部』ってのがあったのを思い出す。どんな代物か知らないけれど、社長秘書室のお局から受付の子まで出入りしてるって聞いたことがある。いずれにしても凄い情報が飛び交ってそうなアカウントだと思う。今の出来事を絶対載せてるんだろうな。 「いいなあ。黒田家と食事」  いや、浅井。お前にとっての黒田課長って一体なんなんだよ!? 「っていうか深田。ちょっと課長に言い過ぎだったんじゃないの?」  浅井が深田に言った。深田はまだ課長たちが出て行った方を見ていた。 「すげえ。課長にあんな顔されたの初めてだ」 「まあ、あんな怒ったとこ見たことないし。え? もしかしておまえ喜んでる!?」  恍惚とした表情の深田を見て浅井が声を上げた。 「おまえ……怒られて喜んでるとか、もしかしてドM!?」 「課長にあんな顔をさせたのが俺かと思うとゾクゾクするね」 「ドMなのかドSなのかはっきりして!?」  うわー。こっちはこっちでなんか拗らせてるよ、おい。  しばらくするとまだ機嫌が悪い課長とぐったり疲れたような黒田課長が戻ってきた。  心なしか課長はしょんぼりしているように見えた。 「課長」  魔女たちは声をかけた。課長は返事もせずただ振り返った。 「徹さんがここに来てからの動画ありますけど、要ります?」 「いる」  はああああ!?  うっそ! ずっと撮ってたの!?  では課長の個人のスマホに送っておきますね、なんてスラっと言ってるけども! 怖えええ。  課長は自分の席に着くとすぐに自分のスマホを開けた。どうやら届いていることを確認したようだった。そしてお弁当を持ってきた黒田課長と一緒に、弁当を食べながら見始めた。もちろん音が聞こえないようにイヤホンをしているが、黒田課長と分けて一緒に聞いていた。仲良いな、おい。  え、マジで!? と黒田課長の声がした。黒田課長は振り返って二課の羽田課長を見ている。あ、二木の告白のとこなんだろうな。  そしてすぐに長い溜め息が聞こえた。 「徹は無自覚にこういうことするから困るんだよね」  そう呟いた。たぶん徹さんが二木を励ましてる場面を見ているんだろう。 「──みんな徹のこと好きになっちゃうじゃん」  いや……確かに徹さんのことはみんな好ましいとは思ったと思うけど、たぶん課長とは違う意味かと思いますが。  とにかく課長の心配ごとは増えたようではあった。
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