番外編 初めてのおつかい

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「あの、部長代理。そろそろその辺にしませんか。お時間が」  弱々しい声がした。振り返ると羽田課長だった。 「あ?」 「あ、あの、三木課長には私から伝えておくので。その、もうお時間かと」 「大事なところだぞ! そんなもん待たせておけ!」 「今日は会頭がいらっしゃると言ってたのを思い出したもので」  部長代理はわざわざ自分の自慢の腕時計を見た。そして舌打ちをした。 「三木課長には今日のことを伝えておけっ!」  そう言って部長代理は面白くなさそうに出て行った。  はあーーーと部長代理が出て行くと、羽田課長は息を吐いた。  僕も二木も涙目だった。 「水沢さん? ごめんね。嫌な思いをさせてしまって」 「いえ。すみません、俺……」 「大丈夫だよ。誰も君のこと迷惑だなんて思ってないから。心配しないで」  下を向いている徹さんの頭を羽田課長は撫でた。 「あの人はああいう人だから。ね? それより君のきんぴらとても美味しかったよ。懐かしい味がしたから」 「本当ですか? よかった、口に合って」  徹さんはやっと顔を上げて微笑んだ。羽田課長はその顔を見て、ホッとしたようだった。 「……きっとこのまま帰しちゃったら、三木課長がなあ」  羽田課長は呟いた。確かに。課長はブチ切れるだろうと思う。 「勅使河原くん、三木課長は何時頃帰ってくるの?」 「あと一時間くらいですかね」 「じゃあ水沢くん。よかったら、ウチの課のキャラクターを見てもらえないだろうか?ウチも真似して作ってみたんだけど、なんだかしっくりしなくて」 「あの……俺なんかでいいんでしょうか?」 「私からのお願いはやはりきいてもらえないか……」 「あ、いや。そういうことじゃなくて。はい、俺でよければ」  羽田課長はそのまま徹さんを自分の席まで連れて行ってしまった。そこに女性二人が呼ばれた。たぶんそのキャラクターの担当なんだろう。そのまま座って話し始めた。  僕はホッとしつつも、二木が心配になって声をかけた。 「二木。大丈夫か?」 「……カッコいい」 いや、そっちじゃねえから。 「大丈夫です! ちゃんと課長には報告しますから」  二木は何故か自信ありげに言った。
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