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三木課長はそれから一時間くらいすると帰ってきた。
「「課長〜〜!!」」
僕と二木は姿を見たらホッとして涙目で課長を迎えた。
「おわっ! なに!? え? どうして徹が二課にいるの!?」
「あの、いろいろあって。その……」
「課長! 動画撮ってあるんで見てもらっていいですか!!」
はい? 二木、いつの間に……てかやっぱり魔女たちに毒されてる!?
課長は二木の迫力に押されて頷いた。二木は自分のスマホを課長のところまで持って行った。
課長は不思議そうな顔をして再生した。
最初から眉間に皺は寄っていたけれど、そのうち一人で呟き出した。
へーとかふーんとか最初は言ってたけれど。
「へえ、徹にこんなに頭下げさせたんだ? こんなくだらないことで」
え? 今の課長の声だった!?
振り返ってみたけれどやっぱり課長しかいないし、しかも薄笑いをしていた。いや、逆に怖いから!!
「そう……そっちがそのつもりなら、叩き潰せばいいんだよねえ」
なんかえらい物騒な話になってきたんだけどっ!
課長はおもむろに電話を掴んだ。どこかに内線をかけている。
「VC課の三木です。社長のスケジュールってどうなってます? 五分だけ欲しいんですけどどこか空きませんか?」
社長? まさか社長に言いつけるとかするんだろうか?
「分かりました。十五分後に伺います」
そう言って内線を切ったけれど。今の課長にはどうやっても話しかけられる雰囲気ではなかった。課長は10分過ぎた頃席を立って出て行った。それと交差するように駆け込んできたのは魔女二人だった。
「「なにがあったって!?」」
帰ってきてすぐそれ!? もしかして二木が連絡したとか……?
「見てください」
二木が神妙な面持ちで動画を再生した。魔女二人はかぶりつきで見ていた。
「よお、勅使河原なんかあったのか?」
わっ! 背後に深田と浅井が立っていることすら気が付かなかった。
「いや、えっと……」
「ちょっと面白いから見てって」
呼ばれて二人は移動する。うわーえげつな……とか声がした。
「で、課長には?」
「もう報告しました。いま社長室に行ってます」
社長に報告するのかとみんな首を傾げた。確かにいくら父親とはいえ、こんな嫌味の一つで言いつけても仕方ない気もするんだよな。
「で、徹さんは?」
「いま二課に貸し出されてます」
「それの方が問題な気もするけどな」
深田が眉間に皺を寄せた。
「なーにが問題だって? てか三木は徹ちゃん置きっぱなしにしてどこ行った?」
深田と浅井の肩を組んできたのは黒田課長だった。
「黒田課長!」
喜んでるのは浅井だけだって。浅井は何を思ったのか意気揚々と二木の撮った動画を見せ始めた。いや……止めたほうがいいと思うんだけど。世にも恐ろしいものを見るぞ、浅井。
なになに? と黒田課長は最初機嫌が良かったんだけど……。
動画が進むにつれて無言になっていった。黒田課長は基本陽気だ。特に違う課の人間には余程のことがなければ怒ったりしない。
へえ。
そう呟いた。それは聞いたこともないような声で。浅井は『え?』ってキョロキョロしてた。
「徹ちゃんをこんなに謝らせたのか。あのクソ野郎。おい三木はどこ行った?」
「社長室です」
「は?」
黒田課長はそれを聞くとすぐに動き出した。きっと社長室に行くつもりなんだろう。するとちょうど課長が戻ってきた。
「おい三木。なにしてんだよ!?」
「うん? なにが? ちょうど良かった。話があるんだけど」
課長は黒田課長の腕を取って、自分のデスクに引っ張って行った。
僕たちはそれこそ仕事になんかならなかった。全神経集中させて聞き耳を立てる。
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