第一章

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**  起きたら昼だった。  流石に三木は仕事に行っていた。なんのメモも残っていなくて、もしかしたら俺がいることを忘れてるかもしれないって思ったけど、それなら帰ってきたら出ていけばいいや。  俺がキッチンで水を飲んでるとカリカリと音がした。カリカリ……? 俺は音のする方に歩いて行く。俺が寝てた部屋の向かいの部屋から音がした。不思議に思った俺は扉を開けた。 「にゃああ」  あ、昨日の綺麗な猫……確か 「ミーシャ」  俺がそう言うとにゃあと鳴いた。  部屋を覗くと立派なキャットタワーが聳え立っていた。水も餌も完備してある。どうやらミーシャの部屋らしい。 「俺より立派な部屋に住んでんじゃん」  俺がそう言うとミーシャは涼しい顔をしてリビングの方へ行ってしまった。  俺は冷蔵庫を開け適当なものを作った。俺が食べているとミーシャは足元まで来たが、それ以上のことはなかった。  俺はとりあえずキッチンに何があるのかを確認する。夕飯は家で食べるんだろうか?そんなふうには思えなかったけれど、一宿一飯の恩義があるので何か作れるもので用意しておこう。それから俺は風呂場へ向かった。確か洗濯機はあったと思う。そしてその脇のランドリーボックスには俺の服のほかに三木の脱いだ服が入っていた。  俺は洗濯機を眺める。使ったことないやつだ。取説とかあるといいんだけど、そんなもんはなかった。仕方ないので機械と格闘する。なるほど、洗濯乾燥機というヤツらしい。俺はなんとか洗濯乾燥機を動かすことに成功した。動かすだけ一時間はかかった。慣れないものに触れるのは苦手だ。  ミーシャは俺が動くたびに俺についてきた。俺が洗濯乾燥機と格闘している時も風呂場の入り口でずっと俺を見ていた。オマエ本当は犬なんじゃねえの?  その後、部屋に戻りなんとなく部屋を片付ける。そもそも適当に置きすぎじゃね?俺はとりあえずパンツと靴下をビニールから取り出し、それぞれが取り出しやすいようにその辺にあった籠に詰めた。  洗濯が終わったようで、音が鳴った。取り出してみるとすっかり乾いていて便利だなって思ったけど、なんとなく皺っぽい気もした。まさかそれが嫌でクリーニングに出してるのか?俺は三木の服を畳み、俺の服はベッドの上にそのまま置いた。どうせすぐ着ることになるんだろうから畳まなくていいや。  それからキッチンに向かい、今日作れそうなものを考える。何時に帰ってくるかわからないし、たぶん食べてくるんじゃないかと思う。ならば温め直せるものがいいだろう。  しかし何もない家だな。あるものも全部レトルト。あとは酒の肴になりそうなものばかり。チーズとかサラミとか。  サバ缶あるからサバカレーでも作ろう。サバ缶だからそのまま食べれるんだけど、俺が食べたい。  三木は八時になっても帰って来なかった。仕方ないので先にいただく。ミーシャはやっぱり俺が食べてる間中足元にいた。 「オマエもご飯食べておいでよ」  そう言ってはみたんだけど、ミーシャは動かなかった。俺は食べ終えると皿を洗ってからミーシャの部屋へ行く。カリカリはちゃんと皿に残っている。しかも食べ終えれば自動で出てくる優れものだ。 「うーん」  俺はなんとなく気になって部屋を探す。すると缶詰が棚に入っていた。缶を手に取るとミーシャはにゃあんと鳴いた。  これか?俺はカリカリを一旦皿から空けると缶詰を入れてやった。ミーシャは嘘みたいにがっついて食べ出した。  猫は結構選り好みして食べると言っていた大家さんの言葉を思い出した。 「グルメなんだな」  俺がそう声をかけるとペロリと食べ終えたミーシャは涼しい顔をしていた。
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