番外編 初めてのおつかい

23/23
前へ
/91ページ
次へ
**  次の日、部長代理が真っ青になって飛び込んで来た。 「みみみ三木課長! 一体どういう……!?」 「はい? なんのことでしょう?」 「いや……たかがあんなことで!」 「だから。なんのことですか?」  課長は微笑みを絶やさなかったけれど、部長代理にはいっさい弁解させなかった。 「どうでもいいですけど、仕事に邪魔はしないで下さいね。僕も本気で昇進したいと思ってるので」  そう言った課長に何かを言いたかったようだったが、部長代理は口をパクパクさせて何も言えずに出て行ってしまった。 「本気で昇進したいんですって」 「初めて聞いたわ。役職なんて興味ないって言ってなかったっけ?」 「でも他人の恋路を邪魔するヤツは、ああなって当然じゃない?」 「部長代理の失脚実況でもやろうか?」  いや。仕事してくださいってば。  深田と浅井を見習え。二人ともおあずけ食らったわんこみたいになって課長を待ってるから。二木は二課の書類も引き受けてきたらしい。凄い速さで書類を作成している。  どうやら課長は帰ってから徹さんを問い詰めたらしい。無理やり聞き出した挙げ句、内緒にした罰って言ってずっと徹さんに引っ付いて離さなかったみたいだけど。朝っぱらから黒田課長に自慢していた。黒田課長も週末課長の家に行って同じことするとか騒いでたけど……聞いてるこっちは朝からお腹いっぱいです。  その時の僕はまだ次のミーティングで社長と専務から、今回の騒動の理由を言えと詰め寄られるなんて想像もしてなかった。 **  結局僕たちは地獄のような一ヶ月を過ごした。けれど何だかみんなスッキリしたような顔をしていた。  なんというか課の垣根を越えて協力して仕事をするようになった。部長代理がいた頃には考えられなかったことだ。部長代理は課同士を対立させて煽って数字をやらせるタイプだったからだ。  部長代理の降格処分は、僕がミーティングで詰め寄られてつい喋ってしまった次の日には決まっていた。やはり今までの態度も問題視されたようだった。けれど課長は倍の数字をクリアすることに拘った。そこはケジメだからって譲らなかった。結果としてギリギリで数字はクリアできた。  ちなみに部長代理のポストは空いたままだった。次の人事まで必要ないだろうって社長の判断だった。  徹さんは火曜日直轄プロジェクトのミーティング後、二課のお手伝いもするようになった。こないだ話し合いしてたことを簡単に試してみたら、評判がよかったから引き続きお願いしたいって羽田課長がお願いしたらしい。  おかげで火曜日の課長の機嫌が悪い。徹さんと羽田課長は気が合うようで、無駄に仲がいいからだった。黒田課長も落ち着かないようで、やたらウロウロしていた。 「羽田課長を部長代理にして、僕が二課とVC課をやればいいんじゃないかな。そうすれば徹と一緒に仕事できるし」 「一課と二課をいっそのこと合わせちまえば、俺が徹ちゃんと一緒に仕事できるよな」  どうでもいいけど自分の仕事してくださいってば。 fin
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

425人が本棚に入れています
本棚に追加