435人が本棚に入れています
本棚に追加
**
カシャカシャと不思議な音がして目が覚めた。どうやらソファで眠ってしまったらしい。俺の腕の中にはミーシャがいた。
ん?
「……あれ?三木?」
三木がスマホを俺に向けて立っていた。
「なに……してんの?」
「んー。あまりにも可愛かったからね」
ああ、ミーシャも眠っていたか。俺は腕の中のミーシャの寝顔を見る。確かに可愛い。
「ああ、おかえり」
俺は寝ぼけ眼で起き上がる。せっかく気持ちよさそうに眠っているミーシャを起こしちゃうかな?
「飯、食べてきたんだろ?」
俺がそう言うと三木は驚いたような顔をした。
「え?食べてないの?」
「徹を家に置きっぱなしで飯食いに行くとかあり得ないでしょ」
「あー。てっきり食べてくると思ってたから先に食べてたわ。いま三木の分用意するから」
俺はミーシャをソファにそっと置くと、目を擦りながら立ち上がった。
「サバカレーだけど、平気か?」
「え!?」
スマホでなにやら操作していた三木がまた驚いたように顔を上げた。
「作ってくれたの!?」
「あ、ああ。一応家事担当するって約束だったろ?忘れちゃった?」
三木はブンブンと首を振った。そんなに振るところか?
「じゃああっためておくから着替えてこいよ」
俺がそう言うと三木はそそくさとリビングから続く部屋にそそくさと入って行った。ああ、あそこが三木の部屋なんだな。
「うん、美味しいよ」
三木は本当に美味そうに俺の作ったカレーを食べていた。というかカレーで申し訳ない気もしてきたぞ。
しかし俺の知ってる三木とは何というかかけ離れていた。いつもアンニュイな雰囲気を纏わせて、なにをするにも気怠げな感じだったのに。いま俺の目の前にいるのは尻尾を振ったワンコだ。
「……三木」
「なに?」
「なんか変わった?」
三木の手が止まった。
「どうしてそう思う?」
「うーん、なんとなく?高校の時はもっと違う感じだったかなって。まあずいぶん前の話だから俺の思い違いか」
「まぁ、そう言われればそうかもね」
三木は意味深なことを言うとそのまま食べ続けた。
確かに俺たちはもう高校生じゃないし、それなりに大人になっている。俺だってきっと変わったかもしれないしな。
「あ、そうだ」
三木は食べ終えるとすぐにそう言って席を立った。
「これ。徹の分だから」
戻ってくるとテーブルの上に鍵を置いた。ああ、合鍵ね。
「それとね」
そう言って封筒とカードを置いた。
「これは今月分のお金。いまそんなに持ってないでしょ?先に渡しておくね。カードは生活するのに必要なのを買うのに使って。食材とか」
俺はカードを手に取った。黒いカード?本物?どっかの店のカードみたいだ。そう、高い飲み屋とかの。
「これって使えるのか?あんま見たことないけど。使えるとこが決まってたりするのか?」
俺がそう言うと三木はキョトンとした顔を一瞬したあと、弾けたように笑い出した。
「ブラックカードって見たことない?」
「……飲み屋のカードか?キャバクラとか?」
「僕がキャバクラとか行くと思う?」
「まあ。だって行くだろ?普通に働いてるんだから」
「普通に働いてたらみんな行くってものでもないよ」
そうなのか?
俺はキラキラと光るネオンに吸い込まれるように消えて行くサラリーマンの背中を、羨ましいと思いながら見ていたことを思い出す。あんなふうに自由に飲みに行けたらいいなって思ってた。
まあ、三木はもしかしたらそんなことには無縁なのかもしれない。黙ってても向こうからやって来そうだしな。
「───なんかよからぬこととか思ってない?」
ハッと気がついて顔を上げれば、三木がこっちを疑うような目つきで見ていた。
「あ、いや」
俺はハハハと笑って誤魔化した。どうやらここから近いスーパーではこのカードは使えるみたいだったから、深く考えなくてもいいだろう。
最初のコメントを投稿しよう!