第4話 「魔王だけど勇者と戦いたくありません」

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第4話 「魔王だけど勇者と戦いたくありません」

 リドにゆっくりと下ろしてもらい、俺は地に足を付ける。  やってきた、魔王城。ゲームでは最後に訪れる場所に真っ先にやってきてしまうことになるとは。  そしてこれが、俺の城ってことになる。  こうやって実際に見ると壮観だな。初めて来たとき、いや正しくはゲームでここを訪れたときもデザインが最高にカッコいいなって思ってはいたけど。 「魔王様、大丈夫ですか?」 「あ、ああ。大丈夫大丈夫」  俺はボーっと城を眺めていたからか、リドが心配そうに顔を覗き込んできた。  ここに来てから。この世界に転生しちゃってから驚きの連続で思考が追い付かない。  そもそも転生ってなんだ。要は生まれ変わりってことなんだよな。だったらなんで生まれた時からの姿じゃなくて、ここまで成長してからなんだ?  元々は生まれ変わりとして存在してたけど、俺自身の記憶はずっと消えていたとかで、何かの拍子にポンと思い出した的なことなんだろうか。そうなると、以前の魔王の記憶はどうなった。上書きされたのか? 「魔王様。他の者に見つかると面倒なのでお部屋まで転移しますよ」 「え、転移!?」 「ええ。瞬間移動は私の得意魔法です。それもお忘れですか?」  そうだ。リドは攻撃しても瞬間移動で避けられるからメチャクチャ苦戦した記憶がある。ぶっちゃけ物理攻撃がほぼ当たらない分、魔王より強かった気がする。俺は苦手だったな、コイツとのバトル。  そんなことを考えてると、リドが俺の肩を抱き寄せて指をパチンと鳴らした。  その瞬間、視界が揺らいだかと思えば一気に部屋の中に移動していた。本当に瞬間。一瞬の出来事に驚く間すらなかった。魔法凄すぎる。俺も使えたりするんだろうか。使い方さえ解れば魔王が使えた魔法ならいけるんじゃないか。 「さて。今後について対策を取らねばなりませんね」 「今後?」 「ええ。まず混乱を招くといけないので、他の魔物たちに魔王様の記憶がないことは隠します。暫く魔王様は身を隠した方がいいかもしれませんね。その見た目では威厳も何もないですし」 「そ、そうだな」 「しかし記憶が自然に戻るのを待っていられませんし、神官には相談した方がいいかもしれませんね」 「神官……悪魔神官のフォルグのことか?」 「神官の名は覚えているんですね?」 「その、顔と名前くらいなら分かる程度かな」  ゲーム内で見ただけだから、本人に関しての詳しいことは全く知らないし。  だってガイドブックまだ手に入れてなかったんだから。初回限定版を予約してたのに、まさか読む前に死んじゃうなんて思わなかった。物凄く悔しい。俺のお小遣い、全部使いきったのに。  そういえば、元の世界の俺はどうなったんだろう。父さんや母さん、悲しんでるかな。俺がいじめで死んだって知ったら、どう思うだろう。ちゃんと相談できてたら、何か変わっていたのかな。  あのいじめっ子たちはどうなったんだろう。駅のカメラとかに映っていたら言い訳なんて出来ない。捕まったかな。そうだといいな。まぁ未成年だから罪に問われないのが残念だけど。 「リド」 「はい、どうなさいましたか?」 「魔物……ううん、魔族の間にはいじめってあるの?」 「いじめ? どういうことですか?」 「えーっと、弱い者いじめみたいな? 一人を集団で殴ったり……」 「そのようなこと、我々魔族がはしませんよ。同族同士で争っても無益ですから」 「……そっか。人間より魔族の方が優しいね」 「?」  だとしたら、本当に人間ってバカな生き物なんだな。誰かを下に見ることで優越感を得たがる。虐げられる人の気持ちも考えられない。人間同士で争ってばかりだ。  俺、この世界で魔族になって良かったのかもしれない。  いや、良くないな。  納得しかけたけど、良くないよ。だって俺、魔族っていうか魔王なんだから。勇者と戦わなきゃいけないんだから。  俺の心の恩人である勇者の敵になっちゃったんだぞ。良いことあるかよ。  どうにかして勇者と戦わないで済む方法とかないのか。人間と共存できる方法とか。いや、さすがにそれは無理かな。このゲームのストーリーを完全に無視しちゃってるし。でも俺は勇者と戦いたくない。これだけは譲れないぞ。  でもどうすればいいんだ。魔王である俺が急に「人間と戦うのやめる!」とか言い出したら、さすがのリドも俺のこと怪しむというか裏切り者として殺そうとするかもしれないよな。  魔族側の話を聞いてて、俺の気持ちも完全にこっち側に傾いてるしな。だから問題は勇者だけなんだよ。勇者とさえ戦わないで済めばいいんだよ。  とにかく今はリドの言うことを聞きつつ、以前の魔王の記憶を思い出すことと勇者と戦わない方法を探すしかないのかな。
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