第10話 【人の服を選んでるときが一番テンション上がる】

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第10話 【人の服を選んでるときが一番テンション上がる】

 翌朝になり、身支度を済ませた俺達は北にある国、ノイングリフへと向かった。  誰かに見られると面倒だから空を飛んでる時は認識阻害の魔法をかけてる。姿を完全に消すこともできるけど、二人分やるとそっちの方が面倒くさいから楽な方を選んだ。  北に近づくにつれて、少しずつ寒くなっていく。俺は平気だけど、蓮はキツイかもしれないな。山を越えたら更に冷えるだろうし、防寒対策しておかないと。  途中、どこかの国に寄って装備を整えよう。どの道、ずっと移動って訳にもいかない。宿屋で休まないと。 「どれくらいで着きそう?」 「このスピードなら二日ってところかな」 「もっと急げないの?」 「……出来るけど、お前大丈夫か?」 「風圧なら自分でどうにか出来るよ」  蓮がそういうならスピード上げるか。  人間の体だと耐えられないかなって思ってたけど、お前は普通の人間じゃなかったな。  それは蓮の体を抱え直して、一気にスピードを上げた。  一つ目の山を越えると、一気に気温が変わった。  遠くの方では雪も見える。さすがに俺も寒い。体温調節は平気だけど、視覚的に寒い。  俺、雪の日は家に引き篭もりたいタイプなんだ。 「伊織、雪だ!」 「見りゃ分かる」 「雪ってテンション上がらない!?」 「全然」  俺と蓮とでテンションの差が物凄いな。  コイツは朝起きて雪が積もってたら一目散に外に出て雪だるまとか作っちゃうタイプか。分かり合えないな。 「近くに村があるな。一旦そこで休むぞ。お前、その格好じゃ寒いだろ」 「寒さはどうにか出来るけど……周りから変な目で見られるのは嫌だね」  少し離れた場所で降り、俺は人間の姿に変化した。  俺は変化の魔法のおかげで服も自由自在だけど、蓮はそうもいかないもんな。 「そっちの方が落ち着くね」 「見た目の話か? そりゃあ見慣れてる方がいいに決まってるだろ」 「早く元の世界に帰りたいね。そういえば、向こうの時間ってどうなってんだろ……」 「そういえば、そうだな。母さんたちが帰ってくるまでには戻れるようにしないと」  そこら辺を神剣に確認しておくの忘れてた。時間の流れってどうなってるんだろう。  そういう意味でも、なるべく最短で転生者を倒さないといけないな。あまり無駄な時間はかけてられない。  俺らは村に入り、防具屋を探した。  そろそろ陽も落ちるし、今日はここで休んでもいいかもな。 「ん?」 「伊織、どうかした?」 「あ、いや……」  少し離れた場所にいる子供がこっちを見てた気がした。  何だろう。俺、どこか変だったかな。それともこの寒さで薄着の蓮のことを見ていたのかな。 「まぁいいや。そこが防具屋だ」 「うん」  防具屋に入り、蓮の防寒具を見繕う。  寒さ対策をしたいだけだから防御力とかその辺は気にしなくていい。コイツに似合いそうな服を選べはいいだけだ。 「こっち……いや、こっちの色の方がいいかな」 「い、伊織。どれでもいいよ?」 「待って待って。こっちのコートの方がカッコイイな」 「いーおーりー」  どれでもいいのは分かってる。でもここの村、上着の種類が結構豊富で色々と着せたくなるんだよ。  イケメンは何を着せても絵になるな。どうせなら全部買いたいくらいだけどさすがにそれは非常識だ。  ゲーム内だったら余裕でやってるけど。装備とかアイテムをコンプリートするの好きだったし。 「よし、じゃあこれ」 「うん。じゃあ、これ買おうか」  モコモコのファーが付いた深い青色のコート。うん、似合う。カッコイイ。  満足した俺は、会計を済ませて宿屋を探すために再び村の中を歩いた。 「あー、暖かい。上着着るだけで違うねぇ」 「そりゃそうだろ。えーっと、宿屋……さっき看板見つけたよな」 「あったっけ」 「方向音痴のお前には頼らないから安心しろ」  俺は蓮の腕を引っ張って宿屋のある方へと歩き出した。
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