死を呼ぶ訪問者

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ーあら? お帰りなさい。早かったのね。 ん?驚いた?すごい顔してるわよ。 まあ、一人暮らしの部屋に知らない女が立ってたら驚くわよね。 ーえ?違うわよ。ストーカーなんかじゃないわよ。 ー警察?呼んでも無駄だと思うわ。 だって、私の事を不審に思ってるようだけど、不審者じゃないもの。 ーどういう事って、んー、なんていうか、不審者の「者」が当てはまらないというか…。私は人間じゃないの。 ーうーん、説明が難しいんだけど、私は昨日あなたが強く念じた想いの集合体、とでも言ったらいいかな。昨日は、あなたの想いがあまりに強かったから、目に見える形を持てたってわけ。 ー嘘じゃないわよ。そんなに疑うなら触ってみる?私は想いの集合体だから、目には見えても触ることはできない。実体がないから、通り抜けるだけ。 …ね?言った通りでしょ?これで信じてもらえたかな? ーあら?心当たりない?私がどんな想いの集まりか。あんなに強く念じたのはあなたよ? ーあー、そうか。あの時、かなりお酒が進んでたものね。覚えてないのか。 ーじゃあ、ヒントね。私が女性の形をしてるのも、あなたの想いに関係するの。 ーそうよ、女性に関係するということは? ーそうそう、彼女に関係する事よ。 ーえ?そりゃ、あなたの彼女には似てないわよ。私は、あなたの理想を詰め込んだ顔になっているはずよ。 ーなんでって、あなたが彼女がこんな人だったらって考えたからでしょ。 ー違うわ。それが答えじゃない。あなたが強く念じた時に理想の彼女像も考えてたから、見た目がこうなっただけ。私が生まれた理由じゃないわ。 ーそれは、あなたがどうして記憶を失くすくらいお酒を飲むことになったのかを考えればいいのよ。 ーそう、一人で、自分の家で、こんなにも飲まなきゃならない理由。 思い出して。忘れたんじゃない。忘れかっただけ。 本当は、まだ覚えてる。さあ、引っ張りあげて。 ーそうよ、あなたは見てしまった。SNSに隠れる落とし穴にはまってしまった。 何気ない友人の写真の中に潜む、彼女の浮気の気配に気付いてしまった。 スクロールすればするほどに怪しい写真は増えていき、疑念はあなたのなかで確証に変わる。 次に浮かんできたのは、激しい憎悪。 こんなにも、愛していたのに。 こんなにも尽くしていたのに。 それに対する仕打ちがこれ? 裏切られた。憎い。憎い。憎い。憎い。 死んでしまえばいい。いや、いっそのこと殺してしまおうか。 そんなことを考えながら、そんなに強くもないお酒を次々と口に運ぶ。 体内に入るアルコールの量に比例するように、この部屋には憎しみが溢れていく。 ーようやく思い出したのね。その通り。私はあの時の憎悪の塊。 ー私の目的なんて、決まってるじゃない。 あなたの憎悪で出来てるんだもの。この怨みを晴らすことだけが、私の存在意義。 ー私ね、あなたの彼女に会ってきたわ。と言っても、彼女には私の姿は見えないけれど。 ー私は実体がないから、何処へでもいける。でも、出来ることなんてない。 唯一、出来るのは、触れた相手に憎悪の感情を持たせること。 あなたの強い、強い憎しみに触れると、相手の気持ちも感化される。 それは、とっても小さな不満。 あなたはとっても優しいけれど、優柔不断な所が不満だった。 優しすぎるあなた。ちょっと、男らしい人といるってどんな感じかしらと思った。 あなたといる時とは、また違ったドキドキ。 そのドキドキが楽しくなると、あなたの優しさにイライラするようになる。 あなたが嫌。あなたが嫌い。あなたが憎い。あなたさえいなければ。 彼女はきっと衝動的に刃物を取り、ここへ向かってくる。 ーそりゃ、わかるわよ。私があの子の感情に触れて、変化する気持ちを感じ取ってきたんだから。 きっともうすぐ着くわ。あなたが望み通り彼女を殺しても、正当防衛になる。完璧でしょ? ーそんなの嘘よ。酔ったときこそ、本音がでるのよ。あの時の憎しみが本物。本当は殺してしまいたいの。 さあ、台所から包丁、持ってきておいたほうがいいわよ。のんびりしてると、あなたが殺されることになる。 ーははっ。家に来た彼女を追い返す正当な理由なんてあなたに考えつくの? そもそも、あなた、かなり私の存在にビックリしてたけど、家に帰ってきてから、鍵、かけた? ピンポーン ガチャ
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