149人が本棚に入れています
本棚に追加
3階立てのその店は一階が楽器屋で、新品から中古のありとあらゆる楽器を取り扱っていた。
エレキギターのとなりにバイオリンが並び、ピアノと電子ドラムが肩を並べているような雑多な店。2階には小さなホールがあって、時々何かのイベントが開催されるそうだ。
オレにはまったくもって未知の世界だ。
でも、どうせなら知らないものを知るのもいいかもしれない。
なんでかそんなことを思ったオレは、求人が出ているかも確認しないまま、店長と思しきおっさんにここで働けませんかと聞いていた。ほとんど無意識だった。
ってなわけで、オレは今、楽器屋でアルバイトしている。
クソニートじゃなくて、クソフリーターに昇格したのだ。
働き始めて二ヶ月もすると、店長やもう一人のアルバイトであるマサキとも打ち解けて、それなりに仕事が楽しくなってきていた。
ギターの弦は思ったよりも繊細。
バイオリンの弓は馬の尻尾の毛。
ピアノは定期的に調律しないとダメ。
そんなことをちょっとずつ知った。
だけど、オレにはこれっぽっちも、音楽の良さはわからない。2階のホールで開催されるイベントも、何のジャンルの音楽なのかもわからない。
心の琴線に触れるものがあるかもしれない。
店長はそう言っていたけれど、オレにとって音楽は、パチ屋のバカでかいBGMとかわらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!