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人生には時に、奇妙奇天烈奇々怪々なことが起こるけれど、どうしてか都合の良いドッキリは起こらない。
病院でのユキの左胸には、ちゃんと俺の名前と薔薇の絵が刻まれていた。間違いなく俺のユキなのだ。
牧家の人間は誰も幸せになれない。
このことを、知っていたはずなのに実感がなかった。
ユキに忘れられて初めて実感した。
俺は、ユキのそばにいない方がいい。忘れているのならそのままにして、もう関わらない方がいい。
だけど、ちょっと頭の中で思い出すくらいはいいだろう?
俺はちゃんと覚えているから。
五感すべてに、ユキが刻んだあたたかさを、俺は覚えているから。
これさえあればほかはいらない。
……感傷に浸っているのはやめよう。
そんなことよりほら、俺は今ちゃんと働いてる。成長した。俺はやればできる子だったんだ。アニキの所為で忘れていた。
明日も仕事だ。明後日も。
人間、コレが普通なんだろう?
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