半年後、再会

7/21

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
☆  ギターの弦というのは、オレが思っていたよりも繊細なようだった。  テレビで時々見る音楽番組で、最近流行りの顔の良いバンドグループが、繊細さとは程遠い激しさで掻き鳴らすギターの弦は、結構よく切れるのだ。  切っても張り直せばまた同じ音がなる。  なんて便利な楽器だ。  オレの頭も、切って繋げて、修正ができればよかったのに。 「ユキさん?ユキさーん?……てんちょーう、またユキさんの充電が切れてまーす」 「一発叩いてやれ。それで元に戻るぞ」 「はーい」  と元気な返事を返し、目の前の小柄な女が片手をあげるのが見えた。 「ヤメロ!また記憶が無くなったらシャレになんねぇだろ!」 「またまた。人間って、日々いろんなこと忘れながら生きてるんですよぉ?叩いたくらいで忘れることなんて、どうせそんなもんなんですよ」  女の言う通りだな、と思った。オレだって昨日の晩飯は、もはや何だったのか思い出せない。  だからって叩かれていいわけじゃない。 「ユキさん、前に話してくれたけど、本当に記憶がないんですか?」  オレを叩こうとした女、マサキが茶色の羽毛が束になったハタキで、整然と並ぶピアノをパタパタしながら言う。  オレも同じく、ハタキでパタパタしている最中だ。 「おう。ここ二年くらいの記憶がまったくない」 「なーんも思い出さないんですか」 「今のところ、なーんも思い出さない」  マサキは小柄で、艶のある黒い髪をボーイッシュなショートにした人懐こい女だ。線の細い顔に、切長なのに大きな瞳がふたつくっついていて唇は薄い。男のような見た目に、いつも黒のTシャツとスキニーを履いているから、さらに中性的に見える。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加