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「帰らなくていいだろ。お泊まり会みたいで楽しくない?オレ、子どもんの時憧れてたんだ。友達とお泊まり会。ヤクザの息子がそんなの出来るわけないのにな」
「そうやって可哀想な話すりゃ俺が絆されると思ってる?」
「チョロいとこも修哉の良いところだ」
まったく千隼の言う通りで、俺はまあまあチョロい。他人の気持ちなんてどうでもいいと思って生きてきた俺を変えたのは間違いなく、ユキと、ユキに出会ってから起こった出来事のせいだ。
そんなわけで、別々にシャワーを浴びてセミダブルのベッドに男二人で並んで寝ることになった。
千隼は終始笑顔で、何がそんなに嬉しいのか、布団の中で俺の体を抱きしめて髪に顔を埋めると、すんすんと無遠慮に匂いを嗅いだりなんかしてくる。
「やめろ!俺は犬じゃない!」
「犬というより、捨てられた猫だよな。捨てられたとしてもそれが認められなくて、強がって、ひとりでも平気だって思い込もうとしてる。犬みたいに、鳴いて喚いて縋ろうとしない。オレはさ、セックスはむちゃくちゃだけど、情がないわけじゃない」
よく言うぜ。千隼とヤった次の日の俺は、産まれたての子鹿より脆弱だっての。
「その顔は信じてないな。でもいい。なんなら試す?オレの甘くて蕩けるフルコース」
「気色悪いこと言うな」
「でもして欲しそうだよ?今日の修哉は、イジメるだけじゃ物足りないだろ」
電気の消えた暗い寝室で、カーテンの隙間から漏れる月明かりに照らされる千隼の目と俺の目が真っ直ぐぶつかった。
ウソはつけない。きっとバレてしまうから。
本当は、コンクールの前にユキに言われたことがずっと頭に残っていた。それは千隼と何をしていても消えなかった。
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