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二度あることは三度ある
★
「最近やけにスッキリした顔をしてるけど、どうした?」
ゲイバーのカウンター裏、閉店後の店内掃除中の俺に、ホウキを持った眠そうなユージが話しかけてきた。
「別に変わりないけど?」
「そんなはずないだろ。なんか良いことがあったんだろ?」
ホウキの肢に両手と顎を乗せて、ユージがニヤニヤと笑みを浮かべる。
ユージはわりと俺のことや、他のキャストのことを見ている。気配りのできる大人だ。俺とは大違いで、だからこそこんなクソ野郎ばかりの店でもわりと楽しく働けている。
「良いことがあったからってわかりやすく態度に出るなんて、俺はガキかよ……」
「歳のわりに子どもっぽいなぁとは思ってた」
「ユージ、そりゃ悪口だよ」
とはいえ、ユージの言う“良いこと”がなかったわけじゃない。
この数週間、俺は週に3日ほどを千隼のお楽しみ部屋で過ごしていた。
最初の頃は仕事だからと呼び出さた。ゲームやったり映画を観たりしながらテイクアウトの夕食をとり、朝方寝て昼に起きる。それで、スキンシップ程度に触れ合ったり、はたまた殺す気かというくらいに求められたりして、俺が二度寝している間に千隼はまた胡散臭い仕事に出て行く。
そんなことが何回か続いて、千隼はまるでポッケの中のアメでも渡すように合鍵をくれた。
んで、千隼が来なくても部屋に入り浸るようになった。
何もない自分の部屋は退屈で、千隼はいてもいなくても気にならないくらいには気を許した相手で、だから今の関係を気に入っている。
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