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ひとりでいると思い出す。
ユキとの思い出も、音大のコンクールに行った日に言われた言葉も、なにもかもが頭から離れなくて辛い。
千隼の傍は居心地が良かった。
お互いに距離感を保つのに努力する必要もなく、それなりに相手を思いやれる、大人の関係だ。
ユキとはそんなことできなかった。
俺はいつもユキの強引な性格に流されていたし、ユキは俺の面倒な所を一生懸命理解しようとしていたが、結局そのどれもがどうでもよかったのかもしれない。それこそ、忘れてしまうほどに。
お互いに努力して一緒にいようとした。お互いに努力が必要な相手だった。
そんな関係に、俺たちはきっと疲れてしまったんだ。
「良いことと悪いことは同じだけ起きるよな。幸せだと思っていた時間なんて、そうじゃない時に思い返してみると大して良かったとは思えないのに」
ユージは苦い顔で呟くように言い、俺の顔を見てため息を吐いた。彼にも幸せな時はあったみたいで何よりだけど、そのせいで今の状況を余計につらく思うのなら同情する。
「それでも思い出してしまうから、生きるのは疲れる」
幸せな時間ほどあっという間に過ぎて行く。今がそうじゃないからか、この半年の体感時間は俺だけ宇宙空間にいるようだった。
千隼のおかげで、大気圏くらいには帰って来れただろうか。少し呼吸がしやすい。
「そうは言うが、半年前の修哉は、今にも窒息しそうな生簀のコイみたいだった。もしかして良い相手にでも出会った?」
「まあ、そうかもな」
「誰だ?おれの知ってる人?」
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