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俺は少し悩んだ。相手は一応ここの客だが、元締めのヤクザという立場から世間体を気にして店自体に来たことはない。
千隼の性的趣向が世間に知られようが、ガチゲイでも、セックス狂いのバイであろうが、まあ俺にはどうでもいいけど。
「さては最近頻繁に呼び出してくる太客だろ?」
「……なんでそう思う?」
「こんな仕事してると、出会いなんてそうそう無い。頻繁に呼び出されてるのに断らないのは、つまりそういうことだろ」
やっぱりユージは俺のことをよく見ている。これで敵意があったら最悪だが、眠そうな顔を取り繕いもしないのだから気が抜ける。
「ユージの言う“良い相手”かはわかんねぇけど、当たってるよ」
「そうかそうか!……余程良かったのか?アッチの相性が?」
「どうかな。俺はそもそも、死ぬくらい酷くしてくれないとダメだからなぁ」
「怖ぇよ…修哉のそれはもう病気だな」
「間違いねぇよ」
フフッと、どちらともなく笑い声を漏らす。
「でも良かったな」
不意に真剣な調子で、でも少し笑いながらユージが言った。
「お前は、平気でこの世からいなくなりそうなところがあるからさ。死体発見、飛び降り自殺でした、なんてことが起こりそうで怖かった。ちょっとでも今がマシなら、そんなことにならないと願うよ」
俺はギクリと肩を震わせ(もちろんバレない程度にだ)、何度か自殺未遂を起こしたことはユージには黙っていようと誓った。
「ところで、前の、その…恋人のことはもう吹っ切れたのか?」
「あー……」
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