二度あることは三度ある

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★  朝日がアスファルトを温める前、まだ人通りの少ない道を歩いて帰宅すると、俺のアパートの部屋の前にユキがいた。  コイツの顔を見るとうんざりした気分になる。俺の気も知らないでと、殴りつけてやりたくなる。やり返されるのがオチだろうけど。 「マキ!おかえり!」 「……おう」  無邪気な笑顔は建物の影の中でも輝いていて、心底俺の性癖にドンピシャな整った顔に、ついつい目を逸らしてしまう。 「今日はどうする?どっか行く?なに食べたい?映画でも観る?」 「寝る」 「この前行った映画のアナザーストーリー的なやつがレンタルで出てんだけど、オレんちで観る?」 「お前は!人の話を聞けよ!!」  アパートのドアを塞ぐ形で立つユキを押しのけようとしてみても、ヒョロい俺に押された程度でユキが動くわけもなかった。 「聞いてる聞いてる。で、どうする?」  まあこんな感じで、音大のコンクールに行った日から数週間、ユキは時々(と自分では言っているが、俺からするとほぼ毎日だ)遊びに来るようになっていた。千隼と過ごす時間と、まるで入れ替わりのようにユキと過ごす時間も増えている。  本音を言えば、今日も来てくれたんだと嬉しく思っている。それは紛れもない事実で、現に俺は今嬉しくて顔がニヤけるのを必死になって隠している。  だけどこれ以上傷付きたくない弱い自分も確かにいて、そいつは早くユキから離れろと警告している。 「どこも行きたくないし俺は眠いしお前と遊んでる暇があったらパチでも行く!!だから帰ってくれ!!」 「つれねぇなぁ。でも、そんなところが可愛いよなお前」
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