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多分人生初の記憶喪失なるものを体験中のオレは今、実家を離れて一人暮らしをしている。
日本の北の果てで目を覚ましてから(これには相当驚いた)、地元の病院へ転院しリハビリを続けていたが、それももう必要ないと告げられて、こうして家を出てきたわけだ。
無くした記憶以前のオレは、クズで一文無しのヒモニートだった。
それこそチンピラまがいのことをして金をもらい、飼い主がいる時には媚を売り、強請った金でギャンブルに明け暮れるクズだ。
ゴミのような人生を歩んできたのだから、忘れている二年間も、同じようなものだったのだろうと思う。
要するに、忘れていても構わない記憶なのだろうと。だから忘れてしまったのだと。
でも一度リセットしようと思った。
忘れてしまった二年間を含めて、今までゴミのような人生だった分、これからはマジメに生きてみようと思った。
理由は単純だった。
北海道にまでやって来た母親に、これ以上迷惑をかけるべきではないと気付いたからだ。
オレが目を覚ました時、かーちゃんは泣き過ぎて腫れぼったい目で笑った。そりゃ息子が川に落ちて意識不明になりゃ泣くよな。
オレももう28だ。まともになるなんて、今からでは遅いかもしれない。いやでも、30までに気付けてよかった、うん。
とりあえず体の不調が治ると、オレは仕事を探した。
新天地に選んだ街は、ボロい雑居ビルの多い、でも活気のある街だった。
ある時街を歩いていると、楽器屋なるものに視線が吸い寄せられた。オレのゴミのような人生の中で、ピアノやギターなんてものに触れる機会はなかったが、何故かものすごく気になった。
立ち寄った店内はそれなりに広かったが、所狭しと並んだ楽器で狭苦しかった。
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