1章 盲目の彼女

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 ふれあい動物園に行く途中、恵梨とマメは馬術部で飼っている馬の群れに遭遇した。最先端の研究棟をバックに馬が草を食む光景は他ではなかなか見られない。そういう意味で、この大学はこの街の雰囲気を象徴しているといえるかもしれない。 「どうせ観光に行くなら、もっとあたたかいところに行きたいなあ」恵梨は言った。  恵梨たちにとっては、緑ゆたかな自然も雪景色も、小さいころから身近なものだ。遠くからそんなものを見に来る人たちの気持ちは、あまり理解できない。 「北国で育ったおれたちだからそう思うものの、もっと南のほうの暑いところに暮らしている人からすれば、涼しいところに行きたい、雪が見たいというのは自然な心理かもね」  この大学の生徒は六割が地方出身者ということだけれど、庸介は生まれも育ちもこの霜月市らしい。マメが幼い頃考えていた「近いからここに進学する」を実現した人なのだ。  庸介は椅子をくるりと一回転させた。思ったより暇そうだ。
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